後編
それからチビ聖女は、カイセ王国の聖女として城に住むことになった。
毎日毎日傷付いた人々をその癒しの力で治癒しているらしい。
俺はと言うと、一週間に一度チビ聖女とデートするため城に通っている。
チビ聖女が城に来てから二ヶ月が経過したのだが、出会った頃の子供らしい面影はもうない。
目にはクマがあり、げっそりと痩せこけている。
癒しの力を使い過ぎているようだ。それでも国王はチビ聖女を酷使する。
それに対し、俺はちょっとだけチビ聖女に同情した。
ひでージジイだ。少しは休ませてやりゃあいいのに。
そんなことを思うが口には出さない。
だってさ、俺がチビ聖女を城にやった一番の極悪人だろ。そんなことを言ったら失笑されるだけだ。
俺の僅かな罪悪感が、もうチビ聖女には会いたくないと言っている。だが、そうもいかない。
なぜなら俺は、チビ聖女の白馬の王子様なのだから。
そんなことを思いながら今日も重い足取りで城に向かう。
チビ聖女のいる部屋のドアを開けると、クソ甘いクッキーの香りがした。
「セイロン! いらっしゃい。ずっと待ってたの」
チビ聖女は真っ青な顔をしながらも、嬉しそうに微笑んだ。
俺に会う暇があったら少しでも休めと言いたい。でも、どうやらチビ聖女の中で俺は心の支えらしいのだ。俺がここに来なかったらチビ聖女は今よりもっと衰弱してしまうだろう。俺は絶対にここに来なければいけないのだ。
「こんにちはマリーヌ様。良い香りがしますね」
「今日はハーブクッキーを作ったの! お口に合うからしら?」
甘いもの大嫌いなんだよ、本当は。
でもさ、お前が作ってくれたのなら食ってやらないこともない。
そんな湿っぽい気持ちになっていたら、少しだけ目頭が潤んだ。
――馬鹿か俺は。今更後悔しても遅いのに。
俺は気持ちを鎮めるために一呼吸置くと、爽やかに微笑んでチビ聖女が用意してくれた椅子に腰掛けたのだった。
※※※※
クッキーを食べていたら突然胸が苦しくなった。
ゴホゴホと苦しい咳が続き、気が付いたら血を吐いていた。
「セイロン!」
チビ聖女は青い顔を更に真っ青にして俺に駆け寄った。
「大丈夫です」
俺は血を拭いながらニコリと微笑んだが、実は動揺で心臓がバクバクと鳴っていた。
なぜいきなり吐血した? こんなことは初めてだ。どこか体の調子が悪いのだろうか?
酒にタバコ。不摂生な食事。思い当たることがあり過ぎて原因が分からない。
だが、とりあえずチビ聖女を落ち着かせたい。
このままでは心配のし過ぎで倒れそうだからな。
「あはは。ちょっと体調が悪いだけです。医者に診てもらおうかな」
「そうして! 今お城のお医者様を呼ぶから!」
「そこまでしなくて大丈夫です。行きつけの医者に診てもらいますから、今日は帰りますね」
チビ聖女は大きな瞳を潤ませて、えぐえぐと泣いた。
「本当に、お医者様に診てもらってね? セイロンが死んじゃったら私、私……!」
「大丈夫。泣かないでください。可愛い顔が台無しですよ?」
「……」
「ほら、笑って」
チビ聖女は涙でグチャグチャになった顔で、無理矢理笑顔を作った。
すっげーブサイクで、可愛かった。
※※※※
「不治の病ですね。酒の飲み過ぎですよ。あと半年の命です」
医者は淡々と告げた。
はぁ!? 普通もっと思いやりのある言葉で伝えるだろう!? ショックで自殺する患者が出たらどうするんだよ! と、思いつつ、ハッキリ言ってくれてスッキリした。
そうか……。
俺はもうすぐ死ぬのか……。
悪いことばっかやってたからな。
因果応報ってやつだ。仕方ねーなぁ。いさぎよく死にますか! などとあっけらかんとしながら、その夜はバーに行き、いつも通りしこたま酒を飲んだ。
悪酔いしながら考える。
俺が死ぬこと、チビ聖女には伝えねー方がいいな。
旅に行くからもう会えないと伝えよう。
真実を知ったら、チビ聖女は大いに悲しむ。自惚れじゃなく、アイツは本当に俺に惚れてるからな。
よし!
じゃあ明日チビ聖女のところに行き、最後の別れをして来よう。
「なーにが旅に出るだ! この自分勝手な男め! お前のせいで私はこんなに痩せちまった! 死ねっ!」
とか言ってくれたら嬉しいんだけどな。
それで馬鹿らしくなって聖女なんかやめてくれたら更に嬉しい。
……でも、アイツはそんなこと言わない気がする。
バカだからな。
※※※※
次の日。
チビ聖女に会いに行き、旅に出ることを伝えた。
チビ聖女は怒りも悲しみもせずに、コクンとうなずいた。
「分かった。セイロンがそうしたいのなら、それでいい。それで、お医者様には行った? なんて言われたの?」
「ただの過労と言われました」
「嘘だもん! 絶対何か隠してる! そうじゃなきゃいきなり旅に出るなんて言わないもん!」
なっ……!
鋭いじゃねーかチビ聖女。ガキだと思ってちょっと舐めてたな。
「本当にただの過労です」
「嘘だもん!」
「嘘じゃありません」
「う・そ!」
なんてしつけーガキだ。
俺はだんだん面倒くさくなってきて、右手でボリボリ頭を掻いた。
「過労だって言ってんだろうがチビ。俺がそう言ったらそうなんだよ」
「俺? セイロン本当は自分のこと『俺』って言うんだね」
「そうだよ。なにがセイロンだよ。ガキに呼び捨てで呼ばれる筋合いねーんだよ。セイロン様と呼べ」
俺が
「あはは! セイロン面白いー!」
「なーにが面白いだコラ! ブン殴んぞ!」
俺が怒ったフリをしても、チビ聖女はキャーキャー笑った。チビ聖女がこんなに大笑いしたのは初めてだ。
なにがそんなに可笑しいのか、俺にはさっぱり分からなかった。
チビ聖女はひとしきり笑うと、ニコニコと俺の腕を掴んだ。
「セイロン。最後に本当のセイロンを見せてくれてありがとう。お礼に、私のありったけの力をあげる」
「は?」
なにがなんだか分からない俺に向かって、チビ聖女が俺の口にチュッと唇を押し付けた。
すぐに唇が離れ、チビ聖女は照れたように微笑む。
「なにすんだよ。このマセガキ」
「えへへー。私のファーストキスあげたの」
「いらねーよ。ふざけんな」
「やだー。もうあげちゃったもん」
俺はチッと舌打ちしてから立ち上がった。
「付き合いきれねーわ。もう帰る」
「うん。旅に出るんだよね?」
「……。そうだ。もう俺はここには来ない。だからさ、マリーヌ……」
「?」
俺はチビ聖女から目を逸らし、ぶっきらぼうに言った。
「聖女やめろや。お前、今にも死にそうじゃねーか。お前を騙した俺が言えることじゃねーんだけどよ。マジでやめてほしい……」
チビ聖女の顔をそっと盗み見ると、涙を流しながら微笑んでいた。
「ありがとう、セイロン。大好き」
※※※※
次の日の朝。
国中が慌てふためいていた。
今朝、チビ聖女が死んだらしい。
チビ聖女が朝になっても目を覚さないからおかしいと思って医者を呼んだら、もうすでに死んでいたんだと。
それともう一つ。
俺の不治の病が完治していた。
絶対死ぬと言われていたのに、医者に見せたらなぜか完治していると言われた。
原因は、あのチビ聖女に間違いない。
あの野郎……怪我だけじゃなく、
多分、昨日のキスだ。
チビ聖女は残りの生命力すべてを、あのキスに込めたのだ。
つまり、俺なんかに力を使わなければ、チビ聖女は今も生きていたと言うことだ。
聖女なんかやめて、実家に帰り家族と仲良く暮らしていたかもしれない。
もしくは本当の白馬の王子様が迎えに来て、幸せな人生を歩んでいたかもしれない。
『たられば』の話だ。
死んじまったんだから、もう未来は分からない。
俺は医者の帰りにバーに寄った。
酒が原因で病に
グラスを手に持ちうつむいていたら、ぽちゃんとなにかが酒に落ちた。
――なんだ俺? 泣いているのか?
湿っぽい気持ちを払拭するために、酒を一息に飲み干す。
唇を拭い、ふーっと息をついた。
「
恋愛詐欺師による、聖女を堕とす方法 青空爽 @cyorokero
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