恋愛詐欺師による、聖女を堕とす方法

青空爽

前編

 女に今月の家賃を貰ってから意気揚々と家に帰ると、金ピカの鎧を着た筋肉隆々の男たちが玄関の前にいてビビった。


「セイロン殿ですね? 国王様より通達があり、やって参りました」


 国王? カイセ王国の国王が、チャチなチンピラの俺に何のようだ?

 俺は「はぁ……?」と間の抜けた声を上げて男たちを部屋に入れたのだった。


※※※※


 金ピカの鎧を着た男たちは、聖騎士らしい。

 話を要約すると、こうだ。


 なんでも、カイセ王国で聖女が発見されたらしい。

 その聖女は貧乏な村で普通に暮らしていた十四歳のガキだ。

 どんな傷でも祈っただけで治せるらしい。

 是非とも国で保護したいと言っているのだが、そのガキはなかなか「はい」と言わないらしい。

 その理由が、恋をしているからだと。

 そのガキいわく、


「いつか王子様が私を迎えにきてくれる気がするの。私が王国に行っちゃったらその人が迎えに来れないから、行かない」


 と、訳のわからない夢物語を語っているらしい。

 そこで国王は、このチビ面倒くせーなと思ったそうだ。

 なんとかチビ聖女を手中におさめたい。国王はそこである秘策を思いついた。それは、


「白馬の王子をこちらで用意して、チビ聖女を洗脳しちゃえ。それで、さっさと国にために働かせよう! 作戦だ」


 俺はその案、なかなかいいなと思った。

 つまり、チビ聖女に国王の息のかかった男をあてがって、チビ聖女を意のままに操ろうって算段だ。

 そこでこの世界一の恋愛詐欺師、俺様のご登場ってわけだ。

 要は俺が白馬の王子様を演じて、チビ聖女を夢中にさせりゃいいんだ。それで、俺を通じて国王がチビ聖女を操りたいんだと。

 ガキは嫌いなんだが、謝礼金が半端ないので引き受けることにした。

 二十九歳の俺が、十四歳のチビガキを堕とせるだろうか? 

 無理じゃね? とか言われそうだが、そこは俺。

 あはは。腕がなるぜ。


※※※※


 チビ聖女がお使いに出かけたので、後をつけた。

 人通りが少ない路地に入ったのを見届けてから、子分のキッドに声を掛けた。


「いけ」

「はいっ」


 キッドは大きな足音を立てながらチビ聖女に近付き、下卑げびた笑みを浮かべた。


「へへっ。チビのくせにメスくせー匂いプンプンさせやがって。誘ってんのか? テメーは。ノってやるから着いてきなっ!」


 チビ聖女は真っ青になってキャーキャー叫んだ。

 逃げようとするチビ聖女の細腕を、キッドがガシッと掴む。

 ズルズル路地の奥に連れて行こうとするところで、そろそろ俺の出番だ。


「やめたまえっ」


 俺は颯爽とチビ聖女とキッドの前に立ち塞がった。


「な!? 何だテメーは!?」


 役者じゃのう、キッド。と笑いそうになるのを堪えて、俺はキリッとした表情で叫ぶ。


「この野蛮な男めっ! その可憐な少女を放しなさい!」


 涙をいっぱいにためたチビ聖女の頰が、ポッと染まるのを、俺は見逃さなかった。

 あ……、もう惚れてる。ちょろすぎるな……。

 呆れとつまらん思いに駆られながら、俺は演技を続けた。


「とりゃ!」


 キッドの頰を軽く殴ると、見事に後ろに吹っ飛ぶ演技をしてくれた。


「チキショウ! 覚えてやがれ!」


 ちょっと半笑いのキッドに釣られそうになったが、俺はキリッとした表情を崩さぬまま、チビ聖女の元に向かった。


「大丈夫でしたか?」

「は、はい……」


 そこで俺は、ハッと目を見開いた。もちろん演技だ。

 美し過ぎて驚いてしまったとアピールしたのだ。

 それから頰を染め(俺は意識して頰を染められるのだ)チビ聖女から目を逸らした。


「どうしたのですか?」

「す、すみません。あの野蛮な男があなたに不埒な気持ちを抱いたのが、分かった気がして……」

「え?」

「美しい……。い、いや! 失礼なことを言ってすみませんでした。――これを」


 そう言って、俺はイニシャル入りの白いハンカチを渡した。男がイニシャル入りのハンカチなんて持ってるわけねーだろと言うツッコミは受け付けない。


「では」


 そこで俺は颯爽と立ち去った。

 チビ聖女はポーッと頰を染め、ハンカチを握りしめている。


 ケケケ。

 探すぜ? 俺のこと。国王に頼んで絶対探す。

 そのためにイニシャル入りのハンカチを渡したからなぁ。チョロいぜ! チビ!


※※※※


 それから三日後、金ピカの鎧を着た聖騎士がニヤニヤしながら俺の家にやって来た。


「お見事です、セイロン殿。無事聖女様が釣れました」


 詳しく話を聞くと、俺とキッドが一芝居打ったあの後すぐに、チビ聖女は国王に俺を探してもらうよう頼んだらしい。


「すっごくカッコいい人だったの! 絶対私の白馬の王子様なの!」


 と、大はしゃぎだったらしい。

 国王は心の中で爆笑しつつも、「分かりました。お待ちください」と言って三日焦らして俺に遣いをよこしたそうだ。

 あーー。女ってなんでこんなちょろいの?

 つまらな過ぎてため息が出るぜ。なんてカッコつけつつ、俺は快心の笑みを浮かべたのだった。


 それからは簡単。

 国王に呼ばれましたと言ってチビ聖女に会いに行き、探してくれたことの礼を言う。

 それからチビ聖女の家に何日か通い詰め、親しくなってから懐に飛び込む。ぶっちゃけ抱けば一発で堕ちると思うんだが、流石に十四歳には抵抗があるので、甘い言葉だけでチビ聖女を堕とした。

 今では俺にゾッコンだ。

 俺のためにいつもチョコレートクッキーを焼いて待ってるんだぜ? もっと酒とか出せよ、もてなし方が足りねーんだよと苦笑しつつ、そろそろいいかと俺はクソ甘いクッキーを食べながら話を切り出す。


「マリーヌ様。国王にお伺いしたのですが、あなたは尊き聖女様らしいですね」


 チビ聖女は俺の言葉に食べていたクッキーをうぐぐと喉に詰まらせた。

 咳き込むチビ聖女の背中をさすっていたら、チビ聖女が気まずそうに俺から目を逸らした。


「国王様、バラしたのね! やな人。私、聖女なんかじゃないもん!」

「でも、癒しの力を持っているのでしょう? 素晴らしいと思います」

「素晴らしくないよ。私ね、お祈りして傷を治す力を持ってるの。でもね、お祈りした後すごく疲れちゃうの。ぐったりして二、三日起きられなくなっちゃうの」

「へぇ……」


 チビ聖女はぷりぷり怒りながら話を続ける。


「国王様。絶対私を酷使するわ。毎日怪我を負った人を治せって言うと思う。私だって治せるなら治したい。でも、治すと疲れるの。ちょっとずつ私の命が削られていくような気がするの。私は他の人より自分の命が大事。だから聖女なんてやりたくないの」

「……」


 ふーん。

 ノーリスクノーリターンじゃないんだな。

 自分の命を消耗させながら他人を癒しているのか。

 それなら聖女なんてやりたくねーだろーな。

 しかしこのチビ、他人の命より自分の命の方が大事ってハッキリ言いやがった。

 聖女にあるまじき発言だが、俺は好きだぜ。

 正直でよろしい。


 ――だけどな。


 悪いなチビ聖女。俺は金が大好きなんだよ。

 国王から貰える謝礼金のために、犠牲になってくれ。

 俺はちょっと考える素振りをしてから、控えめに切り出した。


「そうですか。でも……、私はやっぱりあなたに聖女様になってもらいたい……」

「え?」

「だってあなたは選ばれた人間だ。神様に愛されているからそんな素晴らしい能力を与えられたんだ」

「でも……」


 そこで俺はバチンとウィンクした。


「と、言うのは建前で、本当は、聖女になった方が楽だから勧めているのです」

「……楽?」

「そうです。毎日美味しいご飯が食べられて、フカフカのベッドで寝られますよ」

「そうかなぁ? 牢屋とか入れられない?」

「入れられませんよ。尊き聖女様にそんなことは出来ません。可愛いお洋服もいっぱい着られますよ。――それに、ご両親にたんまりお金が入るので、親孝行出来ますよ?」


 チビ聖女はハッとした。


「親孝行……」

「そうです」

「……」


 チビ聖女はなにか考えるようにうつむいた。

 それから探るように俺の表情を窺う。


「セイロンは、私が聖女になったら嬉しい?」

「嬉しいです。好きな女の子が幸せな人生を送ってくれたら、私まで幸せな気持ちになる」


 チビ聖女の顔がリンゴみたいに赤くなった。

 『好きな女の子』と言う陳腐な口説き文句が効いたのだろう。


「……やる」

「え?」

「聖女やる。だからセイロン、私の恋人になって」


 ウケる。

 俺が恋人になればやるのかよ。いいよいいよ。金のためならそのくらいのアフターサービスはしてやるよ。


 俺はニッコリ微笑んだ。


「あれ? 私はもう恋人のつもりだったのですが」

「!」


 俺の言葉に、チビ聖女は顔を真っ赤にしてキャーキャーはしゃいだのだった。

 

 

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