鉄の卵が友を救い、笑いが新年を祝う話。
- ★★★ Excellent!!!
『ニコちゃん先生とてったまくん』は、産休直前に倒れた妊婦の教師をめぐる騒ぎを、友だちの毒舌と台所の匂いで包み直し、最後は新年の門松の前へきれいに着地させる短編だ。テンポが早いのに、登場人物が「心配している」だけで終わらず、言葉の癖と生活の手つきでそれぞれ立っているのが強い。
いちばん効いているエピソードは、料理人の夫が鉄分補給のつもりでレバニラ炒めを大量に持ち込み、病院の規則に引っかかって看護師に注意される一連である。友人の芹香が「匂いでばれるわ!」と突っ込みつつ、結局はそのタッパーを引き受けて白米を調達しに行く。この場面は笑いとして機能しながら、妊婦を支える側の不器用さと優しさを同時に見せる。そこから後半、虹子が鉄欠乏性貧血を「テッケツ」と略して照れ、芹香の手土産の南部鉄器の「鉄の卵」に「てったまくん」と名づける流れが、題の「卵」をきちんと物語の芯へ置き直す。鉄を溶かしてお湯に移すという具体があるため、願掛けや標語に逃げず、生活改善の手触りが残る。
終盤の田坂の来店で、門松やしめ縄の正月景色の中に、赤ん坊の誕生が「店の正月休みを狙ったみたいだね」と笑いに変換され、さらに「てったま茶」「鉄の女」「Fe山田」から「鉄平」という名づけまで、軽口が祝福に変わっていく。コメディの勢いで読ませながら、誰かの身体と周囲の気遣いを丁寧に拾っているので、読み終わりが明るい。