後編
「あら、成松君、ハンカチを見つけてくれたの? でも、ごめんなさい、もうすでに、兼原君がハンカチを届けてくれたわ」
雛形さんが僕を冷たい目で見てくる。
「い、いや、おかしいだろ、なんで兼原がそのハンカチを持っているんだ、僕が落としたハンカチを見つけてきたというのに!?」
「あら、どうしてかわからない? 学年一位の成松君ともあろう人が?」
からかうような顔で雛形さんに言われ、黙考する。
数十秒ほど考えて、気づいた。
そうか、そういうことか!
「兼原、お前、買ったんだな、新しいハンカチを!」
「ああ、お前たちが必死に探している間、俺は雛形から得た情報をもとに、デパートに行って同じものを探して、買ってきたんだ」
「卑怯だぞ!」
「卑怯じゃないわ、もしハンカチを見つけてくれたらお礼にデートしてあげると私は言ったけど、落としたハンカチじゃないといけないとは言ってないわ」
雛形さんが微笑しながら言う。
いや、たしかにそうだけどさ、ありなのかよ、そんなの!
ていうか……
「兼原、お前、僕の恋を応援してくれるんじゃなかったのかよ!」
「すまない、実は俺、お前から雛形の話を聞いているうちに、彼女のことを好きになってしまったんだ」
「まさか、おまえ、やけに雛形について詳しかったのも、僕のために情報を集めてくれたわけじゃなくて……」
「ああ、単に雛形が好きだから彼女をよく見ていただけだ」
「あの時、どういうハンカチか雛形に具体的に聞いていたのも?」
「ああ、俺が同じものを見つけて、買って、雛形に届けるためだ」
「く、くそがぁああ、この裏切者がぁあああ! お前のこと親友だと思っていたのにいいいっ!」
「すまない……」
苦虫をかみつぶしたような顔で謝罪する兼原。
そんな彼の肩に雛形さんが手を置く。
「そういうことで、デートは兼原君とすることになったわ、ごめんなさいね」
「納得できない、なんでだよ、ハンカチを買うなんて誰でもできるじゃないか! どこにあるか推理して見つけてきた僕の方がすごいだろ! そんな奴じゃなくて僕とデートしてくれよ!」
それを聞いた瞬間、彼女はふっと嘲笑うような顔になった。
「成松君、コロンブスの卵って知ってる?」
「え、ああ、知ってるけど」
たしか、アメリカ大陸の発見は大したことではないと言われたコロンブスが卵を立ててみろと言って、誰も立てられないと、彼はテーブルに卵の先端を打ち付けて平らにすることで卵を立ててみせた、というエピソードから生まれた言葉だ。
意味は『誰にでもできそうなことを最初に行うのは難しい』。
「つまり、そういうことなのよ。最初に思いついて、それをできなかった時点であなたの負けなのよ」
と蔑んだ表情で雛形さんから言われる。
「く、くそがあああああ! なんでだよ、なんでそんな顔で見てくる!? 僕とよく目が合っていたじゃないか、僕のこと、少しは意識してくれていたんじゃないのか!?」
「ああ、あれ? まさかあなた、私があなたを気にかけてるとでも思っていたの?
ちがうわ、なんかじろじろ見てきてキモいなって思っていただけよ」
な、うそだろ、まさか、あれは僕の勘違いだったっていうのか?
「兼原君、柔軟な発想ができるあなたは、あの頭でっかちな成松君よりずっと素敵よ」
「雛形さん」
「兼原君……」
二人は見つめ合い、僕の目の前でキスをする。
「や、やめろ!」
そう言うが、二人は僕の目の前で何度も熱い接吻をする。
「ぼ、ぼ、僕が先に好きだったのにいいいいいいいい!」
そう絶叫した後、二人のラブシーンを見ていられず、僕は教室を走って出た。
その直後――
「あ、先生、あいつです! あいつが女子トイレに入っていた奴です!」
廊下に澤本さんがいた。隣に怖いと有名な体育教師の鬼ケ原先生がいる。
「ほう、お前か、優等生だと思っていたんだがな、生徒指導室まで来てもらおうか」
「ち、違うんです、先生、いや、違わないけど、僕は、僕はただ、落とし物を拾おうとしただけで、悪くないんです!」
「そうか、言い訳は生徒指導室でたっぷり聞いてやろう」
「うわあああああああああ!」
そして僕は先生にめちゃくちゃ怒られた。
とほほ……。
超絶美少女雛形玲子の落とし物とコロンブスの卵 桜森よなが @yoshinosomei
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