超絶美少女雛形玲子の落とし物とコロンブスの卵
桜森よなが
前編
僕は
この偏差値60越えの進学校で学年一位の天才だ。
そんな僕には好きな人がいる。
この二年二組の教室の窓側最前列に、その好きな人――
相変わらず、めちゃくちゃきれいだ。
烏の濡れ羽色の髪。三日月のような形の眉毛、人形のように長い睫毛、大きな目、筋の通った鼻、薄い唇……全てのパーツが美しすぎる。
こうして休み時間に、窓際最後尾の席から彼女を眺めるのが僕は好きだった。
あ、目が合った。
でも、彼女はすぐにうつむいてしまった。
照れているのかな、そんなところもかわいいな……。
雛形さんとはよく目が合う。そのたびに彼女は照れくさそうにうつむく。
僕のこと、意識してくれてるのかな……?
「何をじろじろ見てるんだ?」
とそんな僕の至福の時間を邪魔してくる奴が現れる。
彼は
なんであいつと仲良くしてるんだと周りからよく言われる。
まぁそう思われてもしかたないだろうが、彼は勉強はできないがいい奴なんだ。
僕が雛形に恋をしているのを知り、ずっと応援してくれているんだ。
「あ、また雛形を見てるのか、ホント好きだな」
「ああ、めちゃくちゃ好きだ。ずっと見ていても飽きないよ」
「でも、ライバルが多いぞ」
「わかってる」
「告白しないのか?」
「しようと思っているが……」
「早くしないと取られるぞ? この一週間で雛形は11人の男子に告白されているからな」
「まじか、ていうかやけに詳しいな」
「え、そりゃあ、おまえの恋を応援しているからな、普段から彼女をよく見て情報収集しているんだよ」
「兼原……」
なんていい奴なんだ。学年ビリのお前は就職活動苦労するかもしれないけど、もし路頭に迷っても、いつか僕が経営する大企業で雇ってやるよ。
そんなことを考えていた時、キンコンカンコーンとチャイムが鳴った。
授業が始まってしまう。
ああ、もっと彼女を見ていたかった。
雛形、ほんときれいだ、デートとかしたいなぁ。
と思っていたのだが、その日の放課後、早速そのチャンスが訪れた。
授業が全て終わり、ホームルームも終了し、先生が教室を出ると、雛形が唐突に教壇に立った。
なんだなんだとみんなが注目している中、彼女は高らかにこう言った。
「みんな、聞いて。私、ハンカチを落としたみたいなの。今日の昼休みの時はまだあったから、学校のどこかにあると思う。もしハンカチを見つけてくれたら、お礼にデートしてあげるから、お願い、みんな探して!」
それを聞いた瞬間、男子たちは「うおおおおお!」と雄叫びを上げ、ダッシュで教室を出ていった。
ハンカチを見つけたらデートできるという噂を聞いたようで、他クラスの男子まであっという間に参戦してくる。
女子たちが騒ぐ男子を見て、「ほんと男ってバカね」なんて呆れた顔で言っていた。
教室に残った男子はいつのまにか僕と兼原だけになっていた。
「お前は行かなくていいのか?」
と兼原が言ってくる。
「ああ、僕は天才だからね、あいつらみたいに焦って行動しない。常に落ち着いて物事に対処する、クールな男なのさ」
「お、おう、そうか……」
天才である僕に恐れおののいたのだろう、彼はぎこちない笑みを浮かべた後、教壇にいる雛形さんの方に向かっていき、こんな質問をした。
「落としたハンカチって、具体的に言うとどんなやつなんだ?」
そうか、そういえば、どんなハンカチか聞いてなかったな。ていうかそれすら聞かずに飛び出していった男子たち、バカすぎないか?
あれ、でも、兼原は雛形さんを狙っていないはず。なのになぜ彼はそんなことを訊くんだ?
あ、いや、そうか、僕のためか。彼は僕の恋を応援しているからな。僕のために情報を聞き出してくれているのだろう。なんていい奴なんだ。将来、僕が経営する会社の幹部にしてやろう。
「青地でね、ハンカチの真ん中に、ヤンキーキャットっていうマスコットキャラがいるの」
「ああ、あの特攻服を着た猫のマスコットキャラか。最近はやっているよな」
「うん、そう」
なんて会話を兼原と雛形さんがしている。
いい情報を聞いた。でかしたぞ、兼原。
よし、情報という点で周りから一歩リードしたところで、僕も探しに行くか。
そして僕が探し始めてから二時間が経過した。
しかし、まだ誰もハンカチを見つけられていなかった。
おかしいぞ。
大勢の男子たちが学校中を二時間もくまなく探しているのに、まだ見つかっていないとは、どういうことだ?
ん? 男子たちが?
天才である僕の頭脳は、そこに引っかかりを覚えた。
そうか、たぶんわかったぞ、ハンカチがどこにあるか!
しかし、男子がそこに行くのはリスクが高すぎる。
もっと確信を持ってから行きたい。
そこで、僕は雛形さんから話を聞くことにした。
「え、今日の昼休み以降の行動?」
グラウンドをうろちょろしていた僕は教室に戻って、そこにいた雛形さんに質問した。
「えーとね、昼休みは友達ととご飯を食べて、ペットボトルのお茶を飲んだ時に、ちょっと手が濡れちゃったから、その時ハンカチで手で拭いたの。それで、たぶん制服のポケットにハンカチを入れたと思うんだけど、でも、そこからハンカチを見ていないの」
「それより後の行動は?」
「えーと、五限は移動教室で音楽室に行って、普通にみんなと一緒に音楽の授業を受けていたわ。授業が終わって休み時間に友達とお手洗いに行って、六限目は体育だったけど、私、ちょっと足を痛めていたから、その日は体操服に着替えずにみんながバレーをしているところを見学していたわ」
「そうか、ありがとう」
僕はそれを聞いて、ハンカチがどこにあるか、ほぼ確信していた。
体育の時、女子更衣室で着替えた際に、ハンカチを落とした可能性も考えたけど、そうでないなら、残るは一つだ。
僕は教室を出ると、二年二組の教室がある廊下の端にある女子トイレに向かう。
女子トイレの前まで来ると、僕はきょろきょろと辺りを見回した。
大丈夫だ。
僕はあのステルスアクションゲームを1から5までプレイした。
現実でだってスニーキングミッションができるはず。
どこにも誰もいない。
よし、行ける!
僕は女子トイレに入った。
そして、その中をうろつき回ること数分後、手洗い場の下に目的のものを見つける。
あったぞ、特攻服を着た猫が描かれたハンカチが!
男子たちが二時間も学校中を探しても見つからない、ということは男子が探さないような場所にあると僕は考えた。
つまり女子トイレか女子更衣室のどちらかだ。
そして雛形さんから話を聞いて、女子更衣室の可能性を排除した。
僕の推理は当たっていた。
おそらく彼女は五限目の休み時間にトイレに行った時、手を洗ってこのハンカチで手を拭いた後、落としたのだろう。
僕はハンカチを握りしめる。
あとは、これを雛形さんに届けるだけだ!
やったぞ! これで彼女とデートできる!
そう思って、女子トイレを出た時、ばったりとある女子と遭遇してしまった。
その女子があんぐりと口を開けている。
彼女は確か、二年一組の澤本さんだ。
「な、なんで澤本さんがここに?」
「え、なんでって、教室に忘れ物をしたから取りに来たついでにトイレに行こうと思ってただけだけど……って、それはこっちのセリフよ、なんで女子トイレからあんたが出てきたのよ!」
「そ、それは……くっ!」
僕はその場からダッシュで逃げた。
どう言い訳をしても、言い逃れできないと判断したためだ。
「あ、待ちなさーい、この変態!」
彼女が追いかけてくる。
だがしかし、僕は足も速い。50メートル走は6秒ジャストだ。
彼女は女子の中では足が遅くない方のようだが、さすがに僕には追い付けず、数分も経てば、撒くことができた。
「ふぅ、油断していた、とんだアクシデントに遭った」
だが、後はこのハンカチを雛形さんに届けるだけだ。
さぁ、彼女の元へ向かおう!
僕は二年二組の教室へ行った。
しかし、そこには――
「え?」
僕は思わず間抜けな声を上げて、あんぐりと口を開ける。
教室には雛形さんだけでなく、兼原がいた。
しかも兼原は青地に特攻服を着た猫が描かれたハンカチを手に持っており、それを彼女に渡していた。
なぜだ、なぜ兼原がそのハンカチを持っている!?
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