普通でいなきゃいけないとずっと頑張ってきた苦しみが痛いほど伝わってくる

湊は同じ職場に勤める十歳年上の先輩・冬月に恋をしていた。お局から嫌がらせを受ける彼女を守るため、湊は理不尽な「指導」に衝動的に割って入る。しかし、この「助けたい」という気持ちは、次第に歪さを露にしていくのだった。

 冒頭の、あらゆる情報に翻弄される描写が印象的でした。湊の脳機能には偏りがあり、自分に必要な音だけを聞くことができないのです。そんな環境に身を置けば疲れ果ててしまうことは想像に難くありません。彼はマルチタスクも不得意です。でも人一倍努力することで「普通」を維持しているのです。
 湊の思考や行動は極端で、それは生まれ持ったものもあるし、後天的なものもあるのでしょう。
 本作を読んでいて、きっと彼は自分と周りとの違いに苦しんで生きてきたのだと思いました。特性のことで周りから叱責(否定)され、「頑張って直さなきゃと思うのに、努力してるのに、出来ない」という感覚に毎日塗れながら過ごしてきたのではないでしょうか。加えて、親の愛情も知らずに育った(肯定されなかった)彼は、自分はダメな人間だ、無価値な人間だ、周りに認められるにはありのままの自分でいてはいけない、と思うようになったのではないでしょうか。

 自己肯定感の低さ、認知の歪みといった言葉は度々聞きますが、その背景は人それぞれです。ある人は発達障害が影響しているかもしれないし、ある人は親が厳しすぎたのかもしれない。周りからの嫌がらせや、勉強や運動が苦手なことがきっかけかもしれない。
 それぞれの事情を背負い、ありのままの自分でいることに恐怖を感じる人は、世の中には実はたくさんいると思います。そういった、人一倍努力することで「普通」や「居場所」を見出だしている人たちにとって、湊の頑張りや苦しみは、痛みを伴いつつ共感できるものなのではないでしょうか。

 湊と冬月は二人とも真面目で不器用だと思います。
 恋はそれ自体がある意味、脳を「バグ」らせるもので、人間を極端に感情的にさせたりします。嫉妬も独占欲も、甘やかしたい欲求も、誰かの特別であれる嬉しさも、誰かを自分に依存させる喜びも、誰もが持ち得るものだと思います。それらの程度が病んだものになってしまう境界線は、様々な要因によって変化する、流動的で曖昧なものなのではないでしょうか。
 湊と冬月それぞれが事情を抱えていたこと、孤軍奮闘していたことが、二人にとってのその境界線をより難しいものにしたように思います。

 二人を取り巻く人間関係も含めた環境はどう変わっていくのか。その中で二人は何を感じ、考え、行動するのか。ポジティブな転機は訪れるのか。
 これからも二人のことを見守らせていただきます。

(※「第27話 地上への帰還と、金髪の盾」までを読んでのレビューです)