人の生きる世界はどうしようもなく醜く、それでいて愛おしい。
- ★★★ Excellent!!!
おそらく限りなくエッセイに近いだろう小説。私小説に近いものを感じます。
小説として読むか、小説に模したエッセイと読むかは人それぞれでしょう。
それで良いと思います。
本作で描かれるエピソードのいくつかは、私自身近しいもの(ただし同一ではもちろんない)を経験したこともあるような話でもあります。
とてもありふれているようで、当事者にとっては他人事にはできない、そんな話です。
小説としての技巧の有無ではなく、エピソードの強度は、そこにあります。
どれ一つとして近しい経験がない人が恵まれているとか、逆にそういった経験があるから苦難や苦痛がわかるのだとか、そういった話ではありません。極端なまでの脚色の無さ、削り落とされた装飾語こそが、粗削りでもあり荒々しくもある。そんな作品です。
未来のあなたは、この話を数年後に読んだ時、いったいどのように思うのでしょうか。あるいは数年前を振り返ってどう考えるのでしょうか。
ある種の通底した、素朴でありのままの人間賛歌が、ここにあります。