人の生きる世界はどうしようもなく醜く、それでいて愛おしい。

 おそらく限りなくエッセイに近いだろう小説。私小説に近いものを感じます。
 小説として読むか、小説に模したエッセイと読むかは人それぞれでしょう。
 それで良いと思います。

 本作で描かれるエピソードのいくつかは、私自身近しいもの(ただし同一ではもちろんない)を経験したこともあるような話でもあります。
 とてもありふれているようで、当事者にとっては他人事にはできない、そんな話です。

 小説としての技巧の有無ではなく、エピソードの強度は、そこにあります。
 どれ一つとして近しい経験がない人が恵まれているとか、逆にそういった経験があるから苦難や苦痛がわかるのだとか、そういった話ではありません。極端なまでの脚色の無さ、削り落とされた装飾語こそが、粗削りでもあり荒々しくもある。そんな作品です。

 未来のあなたは、この話を数年後に読んだ時、いったいどのように思うのでしょうか。あるいは数年前を振り返ってどう考えるのでしょうか。

 ある種の通底した、素朴でありのままの人間賛歌が、ここにあります。

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