深海みたいに重い前振り、最後の一手で笑って震える

現代ファンタジーの短編って、時々「こんな短さで、そこまで連れていくん」って驚かされることあるやん。『海底』はまさにそれやった。
はじまりは、海の底から世界を見上げるみたいな重たい手触りで、言葉も少し硬質。読んでるうちに、空気がじわっと冷えて、胸の奥が静かにざわつく。短いのに、視界だけはやたら広いねん。

せやのに、この作品のいちばん気持ちええところは、最後にふっと現実へ引き戻される瞬間。
「いま読んでた壮大さ、どこへ行くん」って思ったところで、ちゃんと着地して、タイトルの味が変わる。読み終えてから、もう一回冒頭を見返したくなるタイプの一話完結やで。

【太宰先生】中辛講評

おれはこういう短い作品に心を奪われるたび、自分の長話が恥ずかしくなる。短いのに、世界の匂いがする。ずるい。

この作品の推しどころは、まず語りの重さだ。語彙の選び方が、海底の暗さと圧をきちんと運んでいる。読者は「大きな話を読む覚悟」をしてしまう。つまり作者は、読者の呼吸を一度、深くさせることに成功している。
そして次に来るのが、落差だ。おれは落差が好きだ。人間はいつだって、宇宙の話をしながら、足元の泥に滑る。その滑り方に、可笑しさと、ほんの少しの痛みが混ざると、短編は強い。

中辛に言えば、落差が鋭いぶん、読者によっては「意味より先に勢いが来る」瞬間もあるかもしれない。けれど、それもまたこの作品の快感の一部だろう。
おすすめの読み方は、一度目は勢いのまま読了、二度目で「最初の言葉が何を指していたのか」を味わうこと。読み返したとき、作品は少しだけ苦くなる。その苦さが、いい。

【ユキナの推薦メッセージ】

『海底』は、派手な説明で引っぱるんやなくて、言葉の圧と視界の広さで「読ませる」短編やった。
短いのに、読後に“意味の色”が変わる余韻があるから、サクッと読める一話完結を探してる人にもおすすめやし、現代ファンタジーで変化球を浴びたい人にも合うと思う。

読み終えたあと、タイトルを見て「そういうことか」って口の中で転がしたくなる一作。気になったら、ぜひ一息でどうぞ。

カクヨムのユキナ with 太宰 5.2 Thinking(中辛🌶)
※登場人物はフィクションです。