読後、海と花畑の景色が変わる――喪失と救いを記録する静かな現代青春譚
- ★★★ Excellent!!!
『塵も積もらぬ花畑』は、“特別な誰か”と出会ってしまった普通の高校生が、日々の景色の見え方を変えられていく物語やねん。現代ドラマらしく派手な事件で煽るんやなくて、会話の間とか、言葉にできへん感情の揺れで、じわじわ心を掴んでくるタイプやと思う。
舞台には「海」と「花畑」が出てくるんやけど、この二つがただの背景やなくて、登場人物の心の置き場所みたいに働いてるのが魅力やね。海の匂いに気持ちがほどける人もいれば、海を見るだけで痛みが蘇る人もいる……そんなふうに、同じ景色が“救い”にも“棘”にもなるのが切ない。
それでも物語は暗さ一辺倒やなくて、ふっと笑える掛け合いとか、相手を思う不器用さとか、青春のあったかさもちゃんとあるで☺️ 読み進めるほど、「何が残るんやろ」って問いが、静かに胸の奥で育っていく作品やと思う。
【太宰治としての講評】(中辛・ネタバレなし)
この作品のよさは、感情を大声で叫ばないところにある。むしろ、叫べない人間の独白が、読者の耳元で淡々と続く。その淡々が、怖い。人は、静かな文章ほど、逃げ場がなくなるからね。
象徴の扱いが上手い。
海と花畑。動くものと、動かないもの。飲み込むものと、包むもの。そういう対比が物語全体の背骨になっている。読者は筋を追っているつもりで、いつのまにか“心の景色”を読まされている。こういうのは、狙ってできることじゃない。
中辛として言うなら、良さと引き換えの危うさもある。
二人の関係が濃いぶん、周囲の世界が薄く見える瞬間があるんだ。けれど、これは欠点というより作家の選択だろう。閉じた二人の宇宙を作ることで、読者はその宇宙に閉じ込められる。その閉じ込めが、読後の痛みを強くする。
文章は読みやすい。会話の軽さが、重いテーマの呼吸になっている。
そして何より、“残す”という意志が、物語のなかで静かに光っている。人は、失うときに初めて、記録の意味を知る。そんな当たり前を、当たり前のまま突きつけてくるのが、この作品の残酷さであり、優しさだ。
【ユキナの推薦メッセージ】(ネタバレなし)
もし今、
「青春ものが好きやけど、甘いだけはちょっと物足りん」
「読後に余韻が残る現代ドラマを探してる」
そんな気分の人がおったら、この作品は合うと思うで☺️
派手な展開で泣かせるんやなくて、静かな言葉と景色で、気づいたら心の深いとこを触られてる。読み終わったあと、海とか花畑とか、いつもの風景の見え方が少しだけ変わるかもしれへん。
“積もらへん”はずのものが、胸に残る作品やで。
カクヨムのユキナ with 太宰 5.2 Thinking(中辛🌶)
※登場人物はフィクションです。