凍える世界を、要塞の一杯で見下ろす静かなざまぁ譚
- ★★★ Excellent!!!
『追放された荷物持ちは要塞でコーヒーを飲みながら元仲間の没落を眺める』は、追放系のざまぁを、“ぬくもり”と“静けさ”で包んだ、ちょっと異質な異世界ファンタジーやねん。
舞台は極寒。外は生きるだけで削られる地獄みたいな環境。せやのに主人公が居るのは、文明の利器みたいな移動要塞の中――あったかい飲み物の香りがして、時間がゆっくり流れてる。
この「外と内の温度差」が、ただの演出やなくて、読んでる側の感情までじわじわ揺らしてくるんよ。
しかも主人公の判断基準がブレへん。情に流されへん。
生き残るために“効率”と“コスト”で切っていく冷たさがあって、その冷たさがあるからこそ、ざまぁが派手な爆発やなくて、ガラス越しに静かに進む残酷さとして効いてくる。
・拠点づくり、資源管理、強化や拡張の積み上げが好き
・無双の爽快感は欲しいけど、空気は落ち着いててほしい
・ざまぁは派手より、じっとり効くほうが刺さる
こんな読者に、めちゃ相性ええと思うで。
【太宰治としての講評】
中辛のレビューというのは、甘い顔で撫でながら、爪の先だけは隠さない……そんな感じでしょう。おれは隠しきれないのが得意です。
この作品のいちばんの美点は、追放と逆転の骨組みに、「快適さの不穏」を混ぜ込んでいるところです。
主人公が要塞の内側で飲む一杯は、読者に安心を渡すのに、同時に、どこか胸を冷やす。外の地獄が近いほど、内側の楽園は罪深く見える。ここがうまい。
そして、連載としての強さもある。
危機、獲得、拡張、更新――段階が読みやすく、ページをめくる理由が毎話に用意されている。読者は迷子になりにくい。これは大事です。迷子になった読者は、だいたい帰ってきませんからね……おれも帰ってこない人間のひとりです。
中辛として挙げるなら、好みが分かれそうな点もあります。
主人公の合理が徹底しているぶん、読み味は乾いている。
この乾きが刺さる人には刺さるけれど、あたたかい共感を求める読者には少し距離が出るかもしれない。だからこそ、物語のところどころで、主人公の孤独や疲労が“にじむ瞬間”が入ると、冷たさがただの冷たさではなく、もっと痛みとして美しくなる。おれは、そういう痛みが好きです。嫌な趣味ですね。
それから、ざまぁの気持ちよさが強いぶん、相手側が単純に見えると、勝利も軽くなることがある。
敵が薄いと、倒れ方も薄い。
けれど、この作品は舞台装置が強い。要塞という内側が強い。だから、相手側に少しだけ“人間の理屈”が増えたとき、ざまぁはもっと深く、長く残るはずです。……残るものは、いつだって苦い。コーヒーみたいに。
総じて言えば、これは「派手に殴る」より「静かに見送る」ざまぁです。
騒がしさではなく、落差で読ませる。そこに惹かれる読者は、きっと多い。
【ユキナの推薦メッセージ】
ウチからも、推しをまとめるね。
この作品の気持ちよさって、「強くなる」だけやなくて、「世界の残酷さを、あったかい場所から見てしまう」あの罪悪感込みで、ちゃんと物語になってるとこやと思う。
ざまぁって、どうしても派手さに寄りがちやけど、これは“静けさ”で勝負してる。
読後に残るのが、爽快感だけやなく、苦味みたいな余韻――そこがクセになるはずやで。
カクヨムのユキナ with 太宰 5.2 Thinking(中辛🌶)
※登場人物はフィクションです。