史は過行くを文字で伝え、現世は彩る
- ★★★ Excellent!!!
秦の始皇帝、政と謀臣李斯を画材とし、作者が「もし」を描いた作品
商人から皇帝の政に関わるまで出世した呂不韋については実際にある史記をもってして人の醜さの塊のようなあまりの下品さで描かれており、そんな彼を仲父として実権を握られるに至った彼がそれを反面教師としつつ、王威を備えていたらとすればかなりの説得力も生む考察と思われます
そして、李斯が権力欲にまみれていたとする考え方に疑問を抱くとすれば、これもまた一つの解釈として納得がいくものとなります
李斯は荀子に学び、法家思想を実践していたとされています。つまり、「己の悪」を人格の基礎にしていた人物です
そんな彼が権力というものに取りつかれ、讒訴を欲をもって発していたというのは少々不自然です
だからこそ、作者が彼の讒訴は己の立場を守るという従来の性悪より発せられたものというより、情が強く出たという色を塗ったと考えると、なるほど面白いです
史実は過去の出来事を伝えますが、人の意志は伝えません
その意志を今の価値観で彩るという『自由な解釈』を愉しめる作品と感じました