あとがき

 『令和のカストラート』、完結させて頂きました。最後までお読み下さった読者の皆様には感謝しかありません。


 作者はまだ小説を書き始めて数ヶ月の未熟者でして、読者のニーズを捉えて面白い物語を書く……なんて技術は持ち合わせておりません。ただただ、自分自身の『書きたい』という衝動に突き動かされて書いた物語でした。


 では何故、私はこの物語を書きたかったのか? 内省すると、3つの主題を込めたかったのだと思います。この場を借りて、執筆の動機を語らせて頂ければと思います。


1.表現への渇望

 本作の主人公である朝比奈 優は、ある意味で作者の分身でした。私は子供の頃に吃音症が酷くて、吃る姿を周りから揶揄われて育ちました。子供の頃は声を出して話すのが怖くて、人と話すのが苦手でした。そして、優のように憧れていました。周りの子のように、思い通りに言いたい事を声に出して話し合うことができたら、どんなに楽しいだろう、と。

 

 作者は今でも「陰キャ」でして、会話の中で自分を伝えるのが苦手だったりします。そんな私でも小説を書くことに出会い、物語を紡ぐことで自分の感情や考えを豊かに表現できる事を知りました。作中で、優の声は「檻」でしたが、歌えば「翼」になる。作者も、似たような感触を持っています。日常生活で話す言葉ではうまく自分を表現できないけれど、小説を書くことで、こんなにも豊かな表現ができるのか、と。日常生活で鬱々と積み上がる表現への渇望を、小説を書くことで満たしたい。そんな思いが、執筆の動機の1つでした。


2.虚構と実在

 昨今の、生成AIの進化と無関係な方はいないと思います。美麗なイラストも、面白い小説も、AIが作ってくれる。仕事だって、AIでやれることがどんどん増えてくる。そのうち、人間の小説家は要らなくなるんじゃないか、なんて語る人も出てきました。


 そんな時世に暮らしていると、つい考えてしまうのです。AIの生成物には無い、人間が創ったものにしか宿らない『魂』のようなもの。そんなものは、あるのだろうか? と。作中では松田に語ってもらいましたが、AIが生成した美麗な3Dアバターのアイドルが、AIが作詞作曲した楽曲を、AIの合成音声が歌う。そんな未来がくるのでは無いか、と。そんな虚構に人々は熱狂して、「もう人間の歌い手は要らない」なんて言われる日がくるのではないか、と。


 私は、今はまだ、人間の創作物にしか宿らない『魂』の存在を信じたい。


 だから、優の歌が聴く人を揺さぶる姿を、手を替え品を替え、何度も何度も描いたのだと思います。その歌声は美しくて、生々しくて、聴く者の心を揺さぶらずにはおかない。そんな『魂』の実在が人の心を動かす様を、描きたかったのだと思います。


3.他者との分かり合えなさ

 前述の通り作者は陰キャで人付き合いが苦手なので、実生活では対人関係への悩みが絶えません。ベストセラー『嫌われる勇気』をご存知でしょうか。アドラー心理学によれば、『人間の悩みの全ては対人関係に起因する』のだそうです。世の中は、分かり合えない他者で溢れている。それでも、そんな他者と向き合って、生きていかないといけない。何故なら、他者と関わり合って初めて、自分の輪郭が形作られるから。


 そんな作者の認識が、梨花との一時的な断絶や、優のアンチたちを描かせました。

 そして、しんどい現実への一縷の希望として、梨花との暖かな関係や、紅白歌合戦での『癒しの歌』を描きました。


 作者には、優みたいな振る舞いは絶対ムリです。それでも、紅白歌合戦の優のように、分かり合えないアンチすらも癒せるような存在に憧れます。その憧れを、描きたかったのだと思います。浅ましい自分には、現実世界ではこんな高尚な行いはムリだけど……。せめて物語の中で、憧れを形にしてみたい、と。


 以上、あとがきに代えて、本作執筆の動機を語らせて頂きました。自分語りが過ぎた様で、お恥ずかしい限りです。お読み頂き、ありがとうございました。



 ……さて、本作はこれにて完結ですが、1つだけ心残りがあります。本作の前半で登場したのち、めっきり出番が減ってしまった慎二と真由美です。作者の筆力の無さが原因で、梨花や松田との関係を描いてばかりで、この二人をほとんど描けなかった。


 なので、一休みした後に、番外編を書かせて頂こうと思います。慎二と真由美が主人公の短編となる予定です。


 アンコールみたいな位置付けでしょうか。もし、本作の世界にもう少しだけ浸かりたい……という方がいらしたら、お読み頂けたら嬉しいです!


 最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

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