美しい描写が際立つホラー作品の短編集です。
写実的な作品が多く、読むうちに映像が喚起されます。
そこで浮かび上がってくる画は、妖しく、グロテスクで、かつ美しい。
脳内再生される画によって作品世界へ引き込まれていきます。
また、このグロテスクな美と子ども(特に少女)との組み合わせで描かれている作品が多いのも特長的で、非常に印象深いです。
無垢とグロテスクが生み出す化学反応が、切なさや寂しさ、時には不気味さを匂い立たせ、作品に味わいを与えていました。
両者の相性の良さは、例えば『パンズ・ラビリンス』や『クロノス』などのギレルモ・デル・トロ映画によく表れていますが、それに類する抜群のケミストリーで描かれていたと思います。
はっきり描かないことによる怖さ、というものも強く感じられました。
終盤の、おどろおどろしさが如実になった後の、最も重大な「怖い」場面こそが、直接的には描かれていない。
見えない、判然としない。
つぶさには分からないからこそ掻き立てられる恐怖というものが、作品ごとのラストに感じられました。
グロテスクな画と無垢な存在の組み合わせによって生み出される切なさ・不気味さと、ラストに感じられる不安や恐怖が味わい深い、怪奇譚です。