『another K·night/ASURA』第7話

 『樫尾 騎士』


 樫尾 俊雄が家を出た5分後。


 チリン、チリン。

 チリン、チリン。

 軽やかで優しい音色。

 一定のリズムでベルは鳴る。

 鳴り止まない手振りベルの音に、ナイトは目を覚ました。

 樫尾 騎士かしお ないと

 5歳になって、自分の部屋で1人で寝るようになった。

 さみしくないようにと、悠香が抱き枕を買ってくれた。

 カモノハシの抱き枕。

 ファンシーなタイプじゃない。

 リアル造形なタイプだ。

「ナイト。

···マジでコレでいいわけ?」

 悠香は引き気味に尋ねた。

「コレがいい〜♪

メッチャ、かわいい〜♬」

 ナイトはソレを選んだ。

 体を起こしたナイト。ベッドから出て、お友達のカモノハシのカモ太にかけ布団を優しくかけて、ポンポンとする。

 薄暗い部屋の中、リアルなカモノハシがベッドに潜り込んでいる。そんな風にしか見えない。

 実際、ナイトの部屋を掃除しようとした悠香が、『ヒィ〜!』と悲鳴を上げたことがある。

 パジャマ姿にパチモンじゃないクロックスで、ナイトは家の外に出た。

 家の前の道。

 チリン、チリン。

 手振りベルが鳴っている。

 その音が聞こえるのは、

 覚醒者のナイト。

 そして、ナイトチルドレン。

「うるさいなぁ」

 ナイトは、不機嫌そうに言った。けど、その表情は小さな子ども。まるで、親の小言に反発してるように見える。

 夜道。

 少し離れた場所で、緑色の光が2本差した。

 その光が近づいてくる。

 30センチくらいの緑色の光の棒。その光る棒の反対端はつや消しの黒い20センチくらいの棒。つや消し部分の棒の端近くに握りがある。

 トンファー。

 2本のトンファーを左右に持ったナイト。

 ナイト·トンファー。

 ナイトの前にまで、歩いてきた。

「子ども?

小さな子ども」

 ナイト·トンファーが驚きの声を上げた。

「ぼくの名前はナイト。

うるさいベルの音に悩む、

かわいそうな男の子だよ」

 ナイト·トンファーが肩を下げた。

「何だ、

ただのナイトチルドレンのガキか」

 ナイトが目を閉じた。

 開くと、その瞳は怪しい光を放った。黒い瞳は、紫色に変化していた。

「ただのガキじゃない」

 ナイトの声。

 子どもの声ではなかった。

 低く、しゃがれた声。

 ナイトの右腕が三十センチくらいの黒い球体に包まれた。

 そして、左腕が三十センチくらいの白い球体に包まれた。

 次の瞬間、球体は消え、ナイトの右腕が黒いエナメル素材のように、左腕は白いエナメル素材のように変化していた。

 その右手には艶のない黒く短い筒を、左手には艶のない白く短い筒を持っていた。

 収縮していた筒がわずかに拡張し、折りたたまれていた鍔が開いた。

 刃のない刀の柄。

 見た目は西洋の刀剣に近い。

 それは、ナイトの両親がそれぞれ持っていた武器。

 セーバーだった。

 右手の黒い柄からは、日本刀のように湾曲した青い光の刃が出現した。左手の白い柄からは、赤い光の刃が出現した。

 ナイト·トンファーは一瞬、絶句した。そして、しばらくして息を吐いた。

「···おまえは一体?

それは、ナイトの特異点しか持てない武器、

セーバーじゃないか」

 ナイトは、ナイト·トンファーの驚いてる様子に不敵な笑みを浮かべた。それは、5歳児の男の子の表情ではなかった。 

 冷たいほほ笑み。

 ナイトは、2本のセーバーの両端を接続した。

 青と赤の光刃が変色していく。

 色が混じっていく。

 鮮やかな紫色の光刃。 

 両刃のタブルセーバー。

 ナイトの右手と、左手の色も変色し始めた。その色は灰色になった。

 灰色のナイト。

 両刃の紫の光刃のセーバーを持つ。

 ナイトはポツリと言った。


「ぼくは真の最強のナイト。

ナイト·デスパープル」


 それを聞いた、ナイト·トンファー。左右の2本のトンファー。握りを支点にクルクルと回転させた。まるで、演武を舞う武術家のような動き。小さな男の子に対して、最大限の警戒をしている。

「何それ、

ヲタ芸なの?」

 ナイトがバカにするように言った。ペンライトやケミカルライトをクルクル回して踊るアイドルオタクのように見えたらしい。

「じゃ、ぼくのヲタ芸も見せてあげるよ」

 そう言って、ナイトはダブルセーバーを回転させ始めた。そのスピードは、ナイト·トンファーの比ではない。もはや、回転するタブルセーバーは円形の面に見えた。正面に回転していたセーバーを左右ななめに振り回し、ピタッとそれを止めた。 

 ナイト·トンファーは完全に圧倒されていた。もはや、背を向けて逃げることもできず、残された道はただ一つしかなかった。


「死ね」


 ナイト·トンファーは右手のトンファーバトンを使って、ナイトを指して言った。

 それを聞いたナイト。

 左手にセーバーを持ち、右手でナイト·トンファーを指差して言った。


「死ね」


 ナイト·トンファーのトンファーバトン。握りのあるつや消しの黒い20センチくらいの棒部分。自動的にスライドして、わずかに拡張した。拡張した部分には規則的に穴が空いており、穴から、5センチほどの棒が伸びた。下から斜め上に伸びた2本の棒、その先端が緑色に発光した。


『デスモード』


 トンファー·バトンから合成音声が響いた。

 ナイトの持つ、セーバーの柄。その中央部分が自動的にスライドして、わずかに拡張した。拡張した部分に空いた規則的な穴。上から斜め下に10センチほどの2本の棒が伸びた。下から斜め上へ5センチほどの8本の棒が伸びた。そのすべての先端が青色に発光した。

 ナイトの持つのは、タブルセーバー。2本の柄それぞれが、それぞれ拡張した。発光した棒の数が技の威力を示すとしたら、その必殺技は、ナイトの特異点、ブルーセーバー、レッドセーバーを超える。


『デスモード』


 セーバーから合成音声が響いた。

 ナイト·トンファーは確実に押されていた。はるかに身長と体格が違う大人と、小さな子ども。フルスーツに身を包んだナイト·トンファーと、パジャマ姿にクロックスといったいで立ちのナイト。

 普通なら、その差は歴然。

 しかし、スペックが明らかに段違いだ。ナイトのヤバさを、ナイト·トンファーはひしひしと感じていた。

 ナイト·トンファーが二本のトンファーバトンを。握りを支点にクルクルと回転させた。でたらめな軌道、でたらめな速さ。弧を描くように振り回したトンファーバトンは、ナイト·トンファーの周りに緑色の光の球体を作り出した。

 それを見たナイト。

「何それ、

ヲタ芸の極みじゃん」

 そう言って、クスッと笑った。

 ナイトは右手でダブルセーバーを持ち、腰を落とした。水平にセーバーを振りかぶる。

『デスボール』

 光の球体となったナイト·トンファー。トンファーバトンから合成音声が響いた。光の球体がすさまじいスピードで跳んだ。

『デスパニッシュ』

 セーバーから、合成音声が響いた。

 ナイトはその場から動くことなく、右下から左上へセーバーを振り上げた。

 瞬間的にセーバーの光刃が伸びる。レーザービームのようにはるか向こうまで光刃は伸びた。スピードと相まって、その太刀筋は線と言うよりは面に見える。

 紫の光刃はナイト·トンファーの光の球体をとらえた。球体が動きを止め、やがて斬り裂かれた。

 ナイトは振り抜いたセーバーを返し、今放ったとは違うもう一方の光刃からもデスパニッシュを放つ。右上から左下へ振り下ろす。

 すでに斬り裂かれたデスボールが、さらに斬り裂かれる。

 ✕字に斬り裂かれたデスボール。紫色の炎を上げた。 激しく燃え上がる。跡形も残らず、全てが消え去った。

 初めから、何も無かったかのように。

 チリン、チリン。チリン、チリン。

 金属製の手振りベルの音。

 軽やかで優しい音色

 一定のリズムでベルは鳴る。

 その音色が戦いの終わりを告げていた。

 ナイトの左腕に、覚醒者の証、白いバングル(腕輪)は無い。

 リセットを受ける。

 最強のナイト。

 それは、5歳児の少年だった。

 フルスーツのナイトを、パジャマ姿で撃ち破った。


 悠香はふと目を覚ました。

 ダブルベッドの上、隣に樫尾はいなかった。

 こんな夜中にいない。

 前に、眠れないとき、近所をブラっと散歩に出ると言っていたのを思い出した。

 きっと、そうなのだろう。

 悠香はあまり気にも留めず、ベッドを出た。

 喉の渇きを感じた。

 キッチンへ行き、冷蔵庫の中の水を飲もう。悠香は寝室を出た。

 廊下の明かりを点けた。ナイトの部屋のドアが少し空いていた。寝る前にナイトの寝顔を見て、ちゃんと閉めたはずなのに。

 トイレにでも起きたのかな?

 悠香は、静かにドアを開け、ナイトの部屋に入った。

 ナイトはベッドでおとなしく寝ていた。カモノハシのカモ太をギュッと抱きしめて。

 悠香は思わず、笑みをこぼした。

 わたしのかわいい天使、

 おやすみなさい。

 そして、カモ太。

 相変わらず、

 かわいくね〜ぜ。


 『another K·night/ASURA』 了

 『K·night extra/A New Darkness』へ続く

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『K·night The Saga』 宮本 賢治 @4030965

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