境目は走りながら揺れていく――けれど、それはもうどうでもよかった。

少女エミリーを乗せて走る一台の車。

学園で起きた殺人事件のあと、
エミリーとソニアはドライブを続ける。

――五千文字の物語の設定は、たったそれだけ。

しかし、
この静かに流れる時間の中には、確かな密度がある。

窓から入り込む冷たい風、
森の湿った匂い、
そして後半に広がるターコイズブルーの海。
風景描写はそのまま心情描写となり、
エミリーが過去の呪縛から解き放たれていく過程が、
五感を通して伝わってくる。

車内で交わされる、ソニアとの煙草を介したやり取り。
それらを通して、学園での凄惨な出来事は、
いつしか「おとぎ話」のように遠ざかっていく。

読み進めるうちに、主人公と同じように、
会話の断片をつなぎ合わせながら、
“彼女”の正体を考えている自分に気づくはずだ。

けれど最終的に残るのは、答えではなく、
隣に座って走った時間そのものの確かさである。

さまざまな境目の曖昧さと、
罪と喪失を抱えた少女の、
静かで優しいドライブ。


『ソニアとドライブ』――

これは読み終えたあとに、
ふと風の匂いを思い出したくなる物語だった。

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