少女エミリーを乗せて走る一台の車。
学園で起きた殺人事件のあと、
エミリーとソニアはドライブを続ける。
――五千文字の物語の設定は、たったそれだけ。
しかし、
この静かに流れる時間の中には、確かな密度がある。
窓から入り込む冷たい風、
森の湿った匂い、
そして後半に広がるターコイズブルーの海。
風景描写はそのまま心情描写となり、
エミリーが過去の呪縛から解き放たれていく過程が、
五感を通して伝わってくる。
車内で交わされる、ソニアとの煙草を介したやり取り。
それらを通して、学園での凄惨な出来事は、
いつしか「おとぎ話」のように遠ざかっていく。
読み進めるうちに、主人公と同じように、
会話の断片をつなぎ合わせながら、
“彼女”の正体を考えている自分に気づくはずだ。
けれど最終的に残るのは、答えではなく、
隣に座って走った時間そのものの確かさである。
さまざまな境目の曖昧さと、
罪と喪失を抱えた少女の、
静かで優しいドライブ。
『ソニアとドライブ』――
これは読み終えたあとに、
ふと風の匂いを思い出したくなる物語だった。
日常の一コマのようでありながら背後に複雑な感情や謎を感じさせる、短くも印象的な物語です。
全2話という短編ながら、登場人物の心の揺れや関係性の微妙な機微が丁寧に描かれていて、読後に余韻が残る作品でした。
主人公の視点で進む物語は、シンプルな「車で送る」という行為をきっかけに、ソニアという人物の内面や過去がさりげなく示されていきます。
学園で起きた出来事や告白から伝わる緊張感、そして運転中の会話のやり取りには、日常と非日常が混ざり合ったような不思議な奥行きがありました。
短い文章ながら、ソニアの「過去」と「今」がさりげなく重ねられ、読者の想像を刺激します。
「僕が男だったらどうする?」
学園での殺人事件を経て、新しい施設へ向かう車中。煙草を吸いながら、25歳なのに14歳の生徒として女子寮で過ごしていたソニアが告白する。
小柄で中性的なソニアは、実は男性だったのか?
「僕の恋愛対象は男性だ」「女の子のフリはしてない。自分のアイデンティティは守っている」
混乱するエミリーに、ソニアは謎めいたヒントを残すだけ。真実は次に会うまでの「謎」として——
「どっちにしてもソニアはかっこいいわ。女でも男でも、好きなのには変わらない」
性別とは何か? 煙草の煙のように揺らぐ真実と、確かな想い。短いのに心に深く残る、美しい余韻の物語です。