あなたは、今、本当に生きていますか?

全話読了。胸の奥に残る「息苦しさ」と「生の咆哮」に震えました。

サッカーという素材に、ディストピア感のある管理AI(感情まで統制)を組み合わせた設定。
その中で、主人公の感情の抑制、開放、反抗、解放と綺麗に繋がっていって、気持ちよく読み進められます。

表層を見れば、これはAIが発展する未来への警鐘。
その奥には、(僕が感じたことではありますが)効率、コスパ至上主義の現実世界への寓意が含まれているものと思います。

深く考えれば気づかざるを得ない、合理性・効率性⇔人間性(感情がある)の矛盾を華麗に炙り出している。

説明せず、感じさせている。そこが上手い。

生きていることを感じられない≒操り人形として生きる世界≒AIの指示通りに生きる≒誰かの作ったレールの上を生きる(現代)

それは、人類の繁栄のために、人間性の喪失(心の死)を代償として捧げた、生きていると感じられなくなった、この空虚な現実そのもの。

繫栄していく人類と代償として失われていく個人の生をどう折り合わせるか。

それが本作のテーマであり、最も興味深く読み進めたところでした。

是非、まだ読んでいない方はご覧ください。

現代日本を包む、生きているのに生きていると思えない虚無感の極限がここにあります!

あの最後のシーン。

吠えたのは観客であり、気づいた読者だった、と思いました。気づかない人は、きっと、何荒ぶってるんだと座ったままなのでしょうね。

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