最終話 そして僕達は

「どこだ! 神明!」


 僕は即座に神明を探す。はすぐに見付かった。部屋の隅で小さくうずくまって震えている男。あれが神明叡一だ。


「ひっ! ひいいっ‼ 来るな! 来るなぁぁぁ‼」


 神明は壁に寄って叫びまくる。僕と博士はそんな事はお構いなしに神明に向かって歩を進める。


「神明! 貴様! こんな所に一人で隠れやがって!」


 僕は神明の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせた。神明はだらだらと汗を流して怯えた顔をしている。博士は僕の後ろに立って様子を窺っている。


「さっきまでの威勢はどうした! 姿が3Dホログラムなら喋っていたのはAIか!? この卑怯者! 凜々花の……! 蓮の! ボスの! ガールの仇……!」


 僕はそう叫んだと同時に神明の右頬に数発のパンチを繰り出した。


「がふぉっ! ち、違う……AIでは……ない……!」

「AIじゃないなら余計タチが悪いだろう! さっきまでは余裕綽々だったくせに、いざが見付けられたら弱腰か!?」


 僕はさらに神明の顔面にパンチを繰り出す。神明の顔面からは鼻血と涎が流れ出し、見るも無残な表情になっている。


「ま、待て! 君達を騙したような形になったのは謝る! それと、君達の望むものを用意しよう! な! ワールド総裁の椅子が欲しいならくれてやる! ここに核の起爆スイッチだってある! な! 何でもやるから、何でもやるから命だけは……!」

「みっともない……」


 みっともない。あぁ、みっともない。こんな人間がワールドの総裁なのか。見苦しく命乞いする様な人間が僕達の暮らす、こののトップなのか。


「仲間の命を弄んだお前を、許すわけにはいかない……!」


 僕はもう一発神明の右頬にパンチを繰り出した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 君達の仲間の命を奪ったのは悪かったと思っている! そうだ、クローン! クローンはどうだ!? 仲間の命を蘇らせるんだ。政府の研究者にクローンを用意させよう! 今、今すぐ連絡するから!」


 クローン? そんなもの……。


 僕が一瞬ひるんだ時、神明は胸元に手を入れた。


「ピュア! 避けて!」


 博士が叫んだ。その刹那、神明が僕を突き飛ばしてナイフを手に襲い掛かって来た。


「私がやられっ放しでいると思うなよ!」


 神明は闇雲にナイフを振り回す。僕はそれを避けながら再び神明との間合いを詰めて行く。


 ──ドガッ!


 隙を見て神明の左腕に蹴りを食らわせる。神明の身体がよろけバランスを崩した瞬間にナイフを取り上げてそれを神明の首に突きつけた。


「ワールドの人間はこういった戦いには慣れていない。それはあなたも同じ事だ、神明!」


 僕は神明の首に当てたナイフに力を込め、奴の頸動脈をかき切った。


「ぐわぁぁぁ‼」


 断末魔の叫びと共に、神明が絶命していく。この地球を統べる者の最期としては、実にあっけなくみっともないものだった。


 床に倒れた神明の亡骸から、僕は首を切り落とした。


 そしてその首を高々と天に掲げ……。


「敵将、打ち取ったり──‼」


 神明の首から流れ出す血液が僕をけがしていく。僕の頬にはまた涙が流れる。


 その瞬間、僕は膝から崩れ落ち、咽び泣いた。


「ううっ。うううっ……。うううううっ……!」


 博士が僕に近寄って来て、僕の背中をさする。


「泣きたい気持ちも分かりますけどね、ピュア。ボク達にはまだやる事が残ってるんですよ」

「な、何ですか……? もう神明は死にましたよ……まだ何かあるんですか……?」

「本来の目的を忘れましたか? ボクらはワールド政府を乗っ取るんです」

「もう……二人しかいないのに……!」

「それでも、やるしかないんですよ……」


 僕は涙と鼻水まみれの顔を袖で拭く。


「ピュア、僕はボス……武蔵兄さんの意志を継ぐためにこの計画を途中で諦めるつもりはありません。あなたも、大切な人のためにもう一頑張りしてみるつもりはありませんか?」


 凜々花のために……。凜々花、君は僕がワールド総裁になる事を望んでくれているかい?


「僕……僕らみたいな若者や、凜々花みたいな悲しい子をこれ以上生み出したくありません。もっとこの世の中を生きやすく変えていきたいです……」

「なら、やるべき事はただ一つです。ボク達が神明を倒した後の事は各エリアのレジスタンスにも協力を要請してあります。アマリアも、ゴードンも、他の皆もボク達の力になってくれるはずです。世界中のレジスタンスの力をもってすれば、このクーデターは上手く行きます。目的の達成まであと少しなんですから」


 博士は僕にそっと手を差し伸べる。


。ボクにも、レジスタンスにも、あなたが必要です」


 僕はその手をそっと取り立ち上がる。


「僕の……居場所……」

「そうです、純。あなたの、そしてボクの居場所です」

「ただ、博士……いや、に一つだけ聞きたい事があります」

「……? 何ですか?」


 僕はポケットから凜々花のイヤリング型イヤホンをそっと取り出した。


「血液からクローンを作る事は可能ですか……?」

「まさか……!」


 僕はひとつこくりと頷く。


「出来ない事はありませんよ。いや、出来ますよ。あなたがそれを望むのならば、ボクはその要望に応えるのみです」


 凜々花……ねぇ、僕と一緒に、新しくなるこの世界を見よう。二人で手を取り合って、生きやすくなったこの世界で生きよう。


 僕は君さえいれば何だって頑張れる、どんな辛い事にでも耐えられる。だからお願い、傍にいて欲しい……。


 

 僕と博士は降りて来た階段を上り地上へと帰る。そして地下世界へと戻ってワールド政府を乗っ取るんだ。そこには他のレジスタンスの皆もいてくれる。


 君に再び逢えるのがいつになるのかは分からない。でも、僕はその日が来る事を心の糧にしてこの世界を変えて待っているから。


 この世界を楽園パラダイスにするその日まで、僕は戦い、そして君を愛する事もやめないから。


「純、政府を乗っ取ったら、まずは美食家の一斉排除でもしますか?」

「その前に人肉食推進法の廃止ですよ」


 これから僕は、ワールド総裁として生きて行く。


 その道程は、とても厳しく困難なものになるだろう。


 しかしその傍らには、僕を心底支えてくれる一人の少年と、とても美しい少女がいたとかいないとか──。



────了

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食人都市 無雲律人 @moonlit_fables

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