第9話


  <星新一風に>


『エキゾチックな娘』


 エヌ氏の通勤路には、道すがらにおしゃれな喫茶店がいくつかあり、暇つぶしに立ち寄ると、たいていかわいい女の子とかに第二種接近遭遇?をする羽目になる。

 女性恐怖症の彼には試練なのだが、これも修行、とか思い定めて堪えている…

 アレルギーの脱感作療法のつもりで、まあそのうちに家庭を作りたいという気持ちもなくないので、ぬりかべだか透明人間だかになった風を装っている…もちろん女の子の眼中に入れる風体ではないし。


 が、恋というのはだしぬけに訪れる。 天災のように。

 ある日、ごく至近距離にいた女の子が、あまりにも自分の理想そのままだったので、エヌ氏は忽ちのぼせ上がって、それからフォールインラヴしてしまった。 ゴルフのホールインワンのような軌跡と奇跡だった。

 一計を案じて、財布を落としてみた。

 とにかく関わりあうきっかけだ!


 「あの…落とし物」

 「は? ああ、財布を落としてた! ワレットしたことが」

 「まあ、それが言いたかったの? うふふ」


 ウィットのわかる女だった。 エヌ氏はますます惚れ直した…

 「どうですか? レモンスカッシュ飲みませんか? スカッとするぜ」

 「まあ、ウフフフフフ。 莫迦みたい」


 「お笑い芸人志望なんですよ。 アルバイトして養成所に通ってます」

 「へえ。 じゃあ…アタシを見て浮かんだ感想で、ギャグを言ってみてよ。当意即妙のね。 爆笑させたらホテルに行ってあげる」

 「えええ? なんて軽いオンナ! 剽軽にもほどがある!」

 「カルイ、ていう字が入っているわよね」

 「アナタは…実はこの世の人ではないですね? あんまりにもエキゾチック。異国的な彫りの深い顔立ち…」

 「で?」


「駅についたですね? ”駅ぞつっく” ”イコカ”でホテルいこか!」

「キャハハハ! 面白い!!」


 面白くもないが、彼女もこの暑さだし、ホテルに行ってみたかったんだろか?

 こうしてエヌ氏のボーナスの5分の一は消えてしまったのだった。


<了>

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令和7年8月17~21日のDIARY 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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