あの日の出来事

クライングフリーマン

あの日の出来事

 あの日

 ======== この物語はあくまでもノンフィクションです =========

 私は、週に一度鍼灸院に通っている。

 メンバーは、院長が鍼灸師兼柔道整復師、院長の奥さんが鍼灸師、そして、院長の右腕格の鍼灸師が施術担当、奥さんと奥さんのお姉さんの看護師、パートの事務員さんが事務担当。

 以上、5人で経営していて、院長以外はシフトで廻している。


 ところが・・・。


 先々週。予約時間より少し早めに行った時のこと。

 奥さん以外に、看護師っぽい人がいた。

 そして、受付に来たり、カーテン仕切りの奥の施術ブースにワゴンを運んだりしていた。

 ワゴンは、多分鍼灸の道具が乗っているワゴンだ。

 いつもなら、奥さんが紹介してくれそうな場面だが、奥さんは私に彼女を紹介しなかった。

 それどころか、奥さんは、彼女と目を合せなかった。会話もなかった。

 いつもとは違う。

 私は、いつものように、トイレを借りた。

 施術前に催すことがないように。

 ふと、右を見た。

 彼女がワゴンを運んだスペースだ。

 誰もいない。

 客も、彼女も、ワゴンも。

 ブースと敢えて言ったのは、4台ベッドスペースがあり、カーテン仕切りなのだが、一番手前がウォーターベッド、後3台が施術用ベッドだ。

 ふと、トイレの扉を開ける前に、半歩下がった。

 トイレの隣は、施術部屋だ。

 誰もいない。

 今、廊下を歩いてきたが、ウォーターベッド以外はカーテンが開いていた。

 詰まり、空だった。


 愛想のいい奥さんだが、帰るまで奥さんに、彼女のことを聞くのが憚れた。

「そんな人、いませんよ。」と言われるのが恐かった。

 看護師みたいな格好の彼女は、忽然と消えた。

 奥さんのお姉さんではない。マスクをしていた。

 流行病が治まった今、この鍼灸院では、ノーマスクが普通だ。

「準医療機関」では、あっても、病院・医院ではないから、スタッフにも利用客にもマスクは強要されていない。


 その晩は眠れなかった。

 待合コーナーには、メンバーの集合写真がある。

 間違い無く、初めて見るメンバーだった。

 そして、それが最後なのかも。


 あの日は、一体何だったんだろう?

 ドッペルゲンガーか?

 次元のクレパスだったのか?


 あの日は・・・。


 ―完―

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