自分自身の小学生時代をつい振り返ってしまう、静かで力強い傑作です。

早苗と由衣の物語、シリーズ3作目にあたる本作は、学習発表会のための合同練習にて、鉄琴・木琴パートの由衣が他の生徒から仲間外れにされている様子を、早苗が目撃してしまうところから始まります。
早苗は事情をほかの女子から聞くのですが、
「由衣はフツウの子なのに、先生にひいきされて鉄琴に選ばれた」という、まったくスッキリできない答えが返ってきました。
早苗はその後、苛立ちを抱えたまま授業を受けていくのですが、体育の授業で怪我をしてしまい、保健室へ向かうことになり――。

小学生時代のちょっとした認識の違いや、共感を求めて固まる集団の怖さ……大人になった今ではすっかり忘れ去っていたことを、本作は見事に捉え、物語という形に仕上げております。
自分自身は小学生の頃、そういう意見に流されていなかったかどうか……本作の持つリアリティに、己の過去を振り返らざるを得ませんでした。

そして、由衣が「フツウの子」ではないことを知っている早苗は、自分自身のことも考えながら、ある行動に出るのですが……そこで深く心を動かされました!

大きな事件や奇跡が起こるのではない、静かな物語。
けれど、誰の心にも届くような、優しい力に満ちている素晴らしい物語。

シリーズを通して、ぜひともご一読ください。

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