「可愛いのに、最後まで目が離せない——“舞”に触れてしまった夜」

  • ★★★ Excellent!!!

導入の研究棟がまず強い。白く磨かれた廊下、整列する少女たち、見送る研究員の神妙さ。ここで「これはただのラブコメじゃないぞ」という空気を一発で作ってくる。
舞台が地方都市のアパートに移ってからは、ハルの生活感と自虐がいい緩衝材になっていて、読者は笑いながら読み進められる。ところが、玄関先に立つ“ドロイド”はどう見ても人間で、言葉づかいも距離感も「自然すぎてズレてる」。このズレがずっと不気味で、なのに可愛いから厄介で、ハルの理性が崩れていくのがリアルに見える。
中盤から出てくる「文章の呼吸」「行間」みたいな話が、単なる小ネタじゃなくて、物語の根っこに繋がっているのが面白い。読者側も気づかないうちに“添削される側”の気分になって、いつの間にかマイのリズムに乗せられていく。
終盤は、軽い会話のテンポを残したまま、じわじわ温度が下がっていく。甘さに見せかけた怖さ、怖さの中の妙な愛しさ。その両方を抱えたまま着地するから、読み終わったあとも余韻が残る短編だった。