「雨の音の向こうで、桜が泣いている」
- ★★★ Excellent!!!
冒頭の桜の描写から、すでにこの物語のトーンは決まっている。
華やかさよりも、雨に打たれ、散っていく“今の桜”を描く視線が静かで切ない。
舞台が高校に移ると、日常の会話や放課後の空気がとても現実的で、その中で楓が少しずつ孤立しているのが伝わってくる。誰かに強く責められているわけではないのに、居場所がない。この描き方が生々しい。
雨の中を逃げるように祠へ向かう場面は、音と感覚の描写が際立っていて、イヤホン越しの音楽と、消せない“声”の対比が印象に残る。そして最後の「花の声が聞こえる」という一文。説明しすぎず、ここまでの流れを受け止めてくれる静かな余韻があった。
派手な展開はまだないけれど、感情と景色がきちんと結びついていて、続きを自然に待ちたくなる序盤だと思う。