授業

ヤマ

授業

 おはようございます。




 じゃあ、今日も元気に授業を始めましょう。




 皆さん、席に着いてください。


 ……冗談ですよ、もう座ってますもんね。




 はい、では、出欠は――取りません。


 見ればわかりますしね。




 さて、今日は少し変わった授業をしましょう。


 教科書は不要です。


 まぁ、ここにはありませんけど。




 早速ですが、問題です。


 「黙って見ていた人間」は、何者でしょうか。


 加害者とか、被害者とか、ありますよね。


 どうですか?

 悩みますよね。


 でも、答えは簡単です。


 全員、等しく「関係者」です。


 関係者は、責任から逃れられない。


 それが、社会のルールです。




 まぁ、君たちが、何者かは明らかですが。


 は、逃れようのないなわけですからね。




 ……おっと、表情が硬くなりましたね。


 では、話題を変えましょう。




 覚えておいてほしいのは、「記憶」というのは、極めて曖昧なものだということです。


 良いですか?


 人の記憶は都合よく、歪む。


 時間が経てば、過去は好き勝手に書き換えられる。




 例えば――


 君たちは、何故、あのとき、笑っていたのか、覚えていますか?


 ……何ですか?


 その顔は、もしかして、ここに来る前に観たものを、忘れてしまいましたか?


 それでは、もう一度、観ますか?


 いつでも再生できますよ。


 ……よろしい。




 さて。


 君たちは、あのとき、笑っていました。


 ええ、勿論、私にも非があります。


 抵抗するべきだった、という思いはあります。


 立場を顧みず、いかなる手段を用いても、めさせるべきだった、という思いもあります。


 私の中で、色々なものが邪魔をしてしまって、行動できなかったんだと思います。


 ですが、あの瞬間、私は試していたのかもしれません。


 君たちの良心を。


 正しさを。

 良識を。


 結果は――残念でした。


 誰も、止めなかった。

 誰も、声を掛けなかった。


 君たちの行動に対して。


 ただ、見ていた。

 あるいは、笑っていた。


 そして今、誰も、何も、覚えていないふりをしている。


 それで良いと、思いましたか?

 何とかなると、思いましたか?


 笑って誤魔化すのは、未熟な人間の常套手段ですね。


 かわいらしい。


 でも、もう通じませんよ。






 おや、そんなに震えなくても。


 叱っているわけではないのです。




 教育です。




 教育は、痛みを伴うものです。


 知識は、身体に深く、刻み込む必要がありますから。






 ……拘束を解いてほしいのですか?


 だめですよ。


 君たちは、大人しく座っていることすら、できないのですから。


 泣いたって無駄です。


 それに――


 君たちは、私のお願いを、一度でも聞いてくれたことがありましたか?






 さて、ここからは、「生物」の授業です。


 私が学生の頃は、蛙でやったんですよ。


 正直、苦手でした。


 生き物の命を奪うということへの抵抗感、と言うんでしょうか。


 罪悪感もありましたね。


 先程も言いましたが、邪魔するものが多いんです。


 ははは。


 私も、未熟でしたね。






 安心してください。


 、これでも君たちの担任ですから。


 実践を交えながら、丁寧に進めていきましょう。


 この倉庫に、チャイムはありませんし。


 時間は、たっぷりあります。








 邪魔するものは、もうありませんから。

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