第43話 律の告白

律に「耳のことがあるから、星宮に向き合わないのか」と核心を突かれ、奏雨はぴくりとも動かなくなった。

前話の回想が鮮明に脳裏を駆け巡り、ぐるぐると同じ思考を巡らせるうちに、静かに絶望の底へと沈んでいく。ギュッと握りしめたスマートフォンの画面に視線を落とす彼の瞳には、もう光は宿っていなかった。


そんな奏雨の様子に、律は言葉を選び始めた。

自身のスマートフォンを取り出し、静かに文字を打ち込み始める。指先がポチポチと忙しなく画面を叩くが、その表情はいつになく真剣だ。迷いのない指の動きは、彼が紡ぐ言葉がいかに重要なものであるかを物語っていた。かなりの長文になっていることは、傍目から見ても明らかだった。


全てを打ち込み終えると、律はそのスマートフォンを奏雨に差し出した。まるで突き出すかのような動作だが、その眼差しはどこまでも真剣で、揺るぎない決意が宿っている。「読め」律の口が、唇だけでそう動いた。


奏雨は無言で端末を受け取り、そこに書かれた文字を読み始めた。


数行読み進めたところで、はっと顔を上げた。その目には、まさかという衝撃が宿っている。律は、奏雨に唇が読みやすいように、大きく口を開いて「いいから、最後まで読め」と再び口パクで促した。奏雨は再び画面へと視線を落とす。


そこに書かれていたのは、奏雨の予想を遥かに超える律の真実だった。


「俺、言ってなかったけど恋人いる。

しかも男。男同士で付き合ってる。


世間からしたら、正しくない恋愛をしているのかもしれない。

そうやって悩んだ時期もあった。

今だから言えるけど、あのときは奏雨にも相談できなかった。


でも今付き合っている人は”二人のことだから、二人が良いと思えばそれでいいんだ”って言ってくれた。今になっては俺もそう思う。


お互いが良いって思えれば、それは問題ないことなんだよ。

お前一人で答えを出そうとするな。

ちゃんと星宮とも話をしてこい。」


律の言葉は、奏雨の胸に重く、しかし温かく響いた。


最後まで読み終え、ゆっくりと顔を上げた奏雨が見たのは、口角をニッとあげ、歯を見せて笑う、子どものような律の顔だった。それは、幼い頃から変わらない、いたずらっぽさと優しさが入り混じった、律にしかできない笑顔だった。

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こぼれた星が聴こえる かとりぃぬ @kanopopura

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