星を喰う。―金平糖十彩―

一ノ宮ひだ

「星を喰う。―金平糖十彩―』


一、冬/雪の華(ゆきのはな)



胸許に ひとひら落ちる 雪の華

白き星々 舌で溶かすの



二、早春/さくら草 (さくらそう)

 


「好き」、かもね かすれ声です 春風は

微熱をのせて 薄紅咲かす



三、仲春/勿忘草 (わすれなぐさ)



会えぬ日の 手紙に込めた 勿忘草

噛んだ青には 苦しい甘さ



四、梅雨/紫陽花(あじさい)



星ひと粒 齧るたびたび 空が泣く

滲んだ紫 頬に残る火



五、初夏/鈴蘭 (すずらん)



手を繋ぎ 告げた秘密に 風揺れて

午後に転がる 碧緑の鈴



六、盛夏/夏蜜柑(なつみかん)



夜の泪 黄金こがねの果汁 零れ落つ

恋うことさえも 流れた星屑



七、晩夏/桔梗(ききょう)



噛み砕く 逸れた眼差し 絵空事

味蕾に残れる 夢の欠片よ



八、仲秋/椛(もみじ)



苔のうへ 汝を燃やす 茜色

吐息に混ざるは 昨日の甘さ



九、晩秋/柚子 (ゆず)



黄の香を 残した指先 雫撫で

摘んだ粒に そっとさよなら



十、冬/透明 (とうめい)



冬が死に 汝の名前が 溶けるまで

ひとりで喰うわ 透明な星 

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