第3話



 十日後、サンゴール王国軍を率いた王女アミアカルバが王都に凱旋した。


 城下町の人々は婚礼も挙げないまま、第一王子グインエルの名代としてこの厳しい『有翼の蛇ゆうよくのへび戦争』を戦いきった若き王女に、家々から雨のように花びらを降らせて迎え入れる。


 帰還式にグインエル自ら出て来たのを見て、アミアは嬉しそうだった。


 彼女は玉座に座るグインエルの前で馬を下りると彼に礼を尽くし膝を折り、自分の腰を飾り続けた【銀の剣】を第一王子へと差し出した。

 この剣は丁度一年前、戦場へ旅立つアミアを、どうか神意が守るようにとグインエルが願いを込めて彼女に贈った剣であった。


 臣下の礼を取りあくまでも王子グインエルを立てたアミアだったが、その時グインエルが玉座から立ち上がって階段を下り、膝をついていた彼女を助け起こすという事態が起こった。


 慣例を無視した前代未聞の出来事だったが、側近が止める間もなかったという。


 グインエルはアミアの手を取ると、そのまま彼女を導いて二人で玉座への階段を上って行く。

 そして一緒に銀の剣を二つの手で握ると、明るく晴れた天に向けてそれを高く掲げたのである。


 サンゴール王城にある五つの鐘が高らかに鳴り響き、太陽が玉座の二人を、そしてそれを祝福する人々の上に降り注いでいた。








 この儀に出ることを固く辞した第二王子は後に、この様子を人づてに聞かされる。

 彼は何の感情も見せずに押し黙ったままだったという。


 第一王子グインエルはこの後アミアを自分の馬の上に抱き上げて、そのまま熱狂的に二人を迎え入れるサンゴール城下へと再び凱旋の軍を引いた。

 この祝事はその日から三日間続きサンゴール王国の人々はようやく【有翼の蛇戦争】の終結と平穏を実感することが出来た。


 そしてこの一連の祝事が事実上の、グインエルと王女アミアカルバの婚礼の儀の代わりとなる。その日からアミアはアリステア王国第二王女、ではなくサンゴール王国王妃と呼ばれるようになった。


 吟遊詩人はサンゴール王国のこの盛大な祝いを、速やかに戦渦に荒れた各国へと謳い伝え、北西の大国の盤石な国勢を内外へと知らせることとなる。



 ――その年、サンゴール王国は光の中にあった。







【終】

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その翡翠き彷徨い【第3話 サンゴールの花】 七海ポルカ @reeeeeen13

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