第十一節 言っていないこと

 ソウの腕に魔力が走り、拳から雷が爆ぜる。わたしは右手に矢を形成する。


 ケンカが始まる、その直前――


 足元の地面から、樹が突き上がるように現れた。


「っ……!」


 宙で身をひねって避ける。


 木の魔力の盾。


 とっさに作ったらしく、形のいびつなその盾は、わたしの前に出したかったんだと思う。


 わたしは、すぐに理解した――。



 ――ランドに、言ってないことがあった――。



 ソウの方にもひとつ、同じ木の盾が出現していた。


 ソウは一歩も動かず、それを叩き割っていた。


 雷をまとった拳を地面につけたまま、砕けた木の魔力の欠片が散っていく。


 拳を振り下ろした姿勢のまま、顔を上げたソウと目が合った。


 ゆっくりと流れる時間の中、


 消散していく魔力と、雷の火花が弾けるなかで――


 ソウは、ランドのいる方向をあごで示した。


 わたしは、こくりとうなづいて、魔力を消した。


 ひとまず、こっちは終わりで……。


 ランドに視線を向ける。


 ランドに言ってなかったこと、それは――



 人の魔力で、人は殺せない。



 ……いや、


 でも! だからといって、戦おうとしてたのは事実で!


 ランドが止めたのは――たぶん、お前なにやってんだってこと。


「ああっ、もうっ!」


 ランドの近くに降りた。


 ランドは、体を杖に預けるようにうつむいていた。そして、わたしを見ずに言った。


「……冗談の域を越えてるんじゃないのか。


 ……は、魔獣を殺すためのものじゃないのか」


 やっぱり、怒ってる……。


「ランド……人は人を傷つけられないよ……」


「……なんだそれは」


 ランドは、何かを考えているような間のあと、「だからどうした」と言った。


 あ、これ完全に。


「……わたし、ランドとどっちが強いかって、聞いたことあったよね。そりゃ気になるよ。戦士なんだもん」


「……」


「でも、ランド言ったよね。エゴは否定しないって。


 わたしだって! ランドとどっちが強いか気になってるから! 当たり前でしょ! 戦士なんだから!」


 ランドは、静かに首を横にふった。


 なにこれ。どうすればいいの……。


「あのー、お取り込み中か?」と、後ろからソウの声がする。


 わたしは、バッと振り返る。


「よお、美男子さん。仲裁は必要?」と、ランドに向かって言った。


「なんなの!」


 わたしは、ソウにまくしたてる。


「さっき無言のやり取りで終わったでしょ? なんでまた来るの! どっか行って! 」


 ソウはにやけながら肩をすくめた。ちらりとランドを見て、


「こんな楽しげなといて飽きねェんだろ? どうか、仲良くしてくれよ」


 軽く手を上げて、


 じゃあな、と言って、ソウは離れていった。



「はーぁ……」


 わたしはため息をつく。


 なんでこんな感じになっちゃったのかな。


 見上げると、きれいな青空が広がっていた。見下ろせば、広大な大地。


 その真ん中で、落ち着かないわたし。


 大きな岩の上に座っている。この岩の下には、ランドが腕を組んで寄りかかっている。そんなふうに、しばらく時間がたっている。


 こんな空気でいいの……?


 ここは街の外、戦線だよ……なんて言うつもりはない。戦士の矜持とか言ったら、さすがのランドもぶちきれちゃいそう。


 ――戦士の力比べって、わからないのかなあ。


 魔力が使えるならそのへんの感覚くらい分かりそうな気がするんだけど。

 

 ……まあ、ランドは戦士の世界を知らないか。そもそも、この世界に来たばかりなんだし。


 召喚獣とのハーフだから、感覚が違うのも当然か。


 でも、わたしの呼びかけに応えてくれた。


 あの『』が、召喚獣としての本能だったとしても、


 ついてきてくれたんだから、


 わたしがなんとかしないとね。


 うん。


「ソウはあんな感じで、カッコつけて去っていったけど、もう逃げられないって気づいてないのかな」


 わたしはランドを意識しつつ、ひとりごとのように、そうつぶやいた。


「……また会う気なのか……」


「……え? 行くよ。スカウトしに来たんだし」 


「あんなことになって、か。リオナも、ソウも……わけが分からないんだよ……さっぱりな……」


「うーん。常にケンカばっかりしてるわけじゃなくて……。


 ときには、お互い譲れないこととか、分かり合えないこと……


 こいつには負けたくない、って状況はあって……」


「何が分かった?」

「つよい」


 下を見なくても、ランドがはあ、と首をふったのが分かった。

 

「……人は、人を……っていうのは?」と、ランドは言った。


「人の魔力は、魔獣にしか効かないよ。人は死なない」


「痛みもないのか」


「痛みはあるよ。でも、例えばわたしの矢が体を貫いても、刺さって穴があくわけじゃない」


「へえ……」


 あれ? 知識欲が勝って、怒ってるのおさまった?


「貫通してるようには、見える……はず。今から追いかけてソウにやってみる?」


「ふざけてるのか?」

「いえ、すみません」


 「はあ……」


 ランドは深く息をついて、


「勝手にやったらいいと、思ってたんだけどな……。


 どうでもよくなったら、なんであんな感情になったのかも分からなくなったな」


 そう聞いて、あ、もう大丈夫なんだって思った。なんとなく。


 わたしは立ち上がり、ふわりと宙に浮いた。


 ランドを見下ろして、


「じゃあ、行く?」


「どこに」


「もちろん、戦線。


 ソウはいま戦線にいるから、次に会うのは夜の街だろうからさ。


 ランドに説明したいとこもあるし。


 ちょうど十二番戦線。ランドの魔獣戦線、始まりだねえ」


 わたしは、腰に手を当てて、笑いかけた。


「組織についていく、だったっけ?」


「とりあえず、リーダーにだけだな」


「あはは。そのうちまた、ふらっと来るんじゃないかな」



 わたしたちは、前へと歩きはじめる。

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スカイ・ロア ~魔獣戦線に立つ者たち~ (・⊝・)ぽけ鶏 @pokedori

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