あらすじ

現代ヨーロッパにある「吸血鬼の国」とあだ名されるローゼンブラウ公国。古い時代の説話から、「吸血鬼ストリボーグ」のおとぎ話、そして近現代のオカルト・都市伝説に吸血鬼が登場する、小さな国である。

現代よりほんの少し未来のある日、そのローゼンブラウの首都近郊、テリオンの森で変死体が発見された。現場に物的な証拠はほとんどなく、困難な事件になると思われたこの事件の担当捜査官となった刑事ニコラとその相棒マークだった。

だがそこにウラディミル・コレンシウ伯爵という男が現れ、民間人でありながらこの件について捜査権を持つとのたまった上、事件の犯人と被害者は共に吸血鬼であると言い出した。ローゼンブラウは昔から根っからの「吸血鬼の国」であるが、この21世紀においては非常識この上ない発言である。おまけにコレンシウ伯爵とその供回りを務める彼の養子アビーとテオに事件の捜査はするつもりはあれど、刑事ニコラたちと協力するつもりはなく、しかもその言動は怪しく謎めいている。コレンシウ伯に崇拝とも盲信とも取れるような言動を見せる養子たちの関係性はあまりに危うく異様であるように見えた。

ニコラとマークは変死体の捜査のため被害者の関係者に接触する中、オカルト・都市伝説じみた治験バイトの噂を聞きつける。さらに採取された指紋から、本事件の容疑者が15年前のとあるカルト事件にも関わっていたことが分かる。通常ではありえないデータの数々にニコラたちが混乱する中、コレンシウ伯の養子アビーとテオがこの15年前のカルト事件で行方不明になっていたはずの被害者の生き残りである疑いが浮上。そんな折に、コレンシウ伯によるささやかなホームパーティーが開催される。

このパーティーでアビー&テオとの交流を深めたニコラは、コレンシウ伯の言動とパーティー後の「ストリボーグ」の襲撃により、コレンシウ伯、そしてメディカル・メルカという製薬会社への疑いを深めることになった。調査を進めた結果、コレンシウ伯とストリボーグが本物の吸血鬼であり、1930年代ローゼンブラウ共産党政権時代の非人道的な実験の被検体だったことを知る。メディカル・メルカはこの当時に研究結果を利用した研究を行っていた。ニコラたちはストリボーグが変死体事件の犯人であると判断。同時にコレンシウ伯にも警戒を強める。

だが彼らの捜査は警察上層部の命令によって打ち切りが宣告された。これに納得がいかないニコラとマークだったが、休暇を取るように命令される。ひとまずそれを受け入れたニコラとマークは自由な行動がとれる「休暇」を利用して自分たちなりに捜査を続けることを決める。そしてニコラは一人でコレンシウ伯に接触する。

コレンシウ伯がオーナーと務めるブドウ畑でなぜか畑の手入れを手伝いつつ、ニコラはコレンシウ伯と国家上層部が吸血鬼の存在を隠したがっていることを知る。そして、養子のアビーとテオを自分の一存で半人前とは言え吸血鬼にしたこと、彼らを本来の親の元に戻さなかったことに憤る。しかし一方のコレンシウ伯はそんな生真面目なニコラに好感を抱き、彼に一つの情報を提供する。

提供された情報に示された施設に向かったニコラとマークは、メディカル・メルカによって地下にとらえられ、被検体にされていた人々を発見。彼らを保護して施設から撤退しようとしていたところに吸血鬼ストリボーグが現れる。先にこの場所でストリボーグと戦っていたコレンシウ伯が合流し、3人は被害者たちの安全な撤退のためにもストリボーグとの交戦を余儀なくされる。

ローゼンブラウの古いおとぎ話にも語られる最強を誇る不老不死の吸血鬼を相手に奮戦する中で、コレンシウ伯は現場に駆け付けたアビーとテオをニコラに預ける。コレンシウ伯は、二人を人間社会に戻して、吸血鬼である自分は彼らと縁を切るべきだと考えていた。だがそれを当人たちが望まなかった。華やかな美貌の裏の深い葛藤と苦悩を抱えるコレンシウ伯がそれを打ち明けるも、そんなことはアビーとテオには関係無い。養父であり吸血鬼としての主でもあるコレンシウ伯への愛を貫く二人は、吸血鬼としてついに覚醒。ニコラとマークの協力を得て、ストリボーグを彼の棺桶に封印することに成功する。

メディカル・メルカとその協力者による拉致監禁・同意のない投薬実験に参加させられていた人々は無事に保護され、事件はここに解決する。吸血鬼の存在は世間には秘匿したままだが、変死体事件も「犯人」を封印したことで解決となった。ニコラとマークはやや特殊な立場となったことで、今後はコレンシウ伯とますます深くかかわっていくことが予感された。

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コレンシウ伯爵とその子供たち 鹿島さくら @kashi390

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