第4話
「ほんと無事に戻ってきてよかった~! 信じて送り出した先輩が……とか嫌ですからね、ぼく」
わざわざ駅までニコラを迎えに来たマークはわざとらしくそんな風に言った。ひとまず向かうのは官舎の自室である。ニコラの自室は壁一面が本棚に置かれ、そこにあらゆるジャンルの書籍がみっしりと詰まり、床には各種新聞やゴシップ誌、学術雑誌が散らばり、ソファとベッドすら書籍類が浸食している有様である。書籍類から家賃を回収したい、とは酒に酔ったニコラの言である。
初めて部屋に入る者ならぎょっとするこの部屋も、相棒であるマークには馴れたもので、ソファの上の本を端に寄せてそこに座る。その彼に、ニコラがウラディミル・コレンシウ伯爵から貰った封筒に入っていた数字の羅列のメモを相棒に差し出した。受け取ったそれをチラと見てスマートフォンの検索ブラウザを立ち上げながら、マークは問う。
「それで……ニック先輩から見てどうでした? コレンシウ伯は」
「正直、何考えてんのか分かんなかった。けど、ストリボーグの協力者ってのも違う感じがした。カンだけどな」
「信じますよ」
さらりと言ったマークはソファに座り込んで、スマートフォンで開いたサイトの検索タブに羅列された数字の一部を打ち込んでいる。
「カンにもいくつか種類がありますけど、多分、ニック先輩のカンは緻密な観察による情報収集と、これまでの経験と知識、それらの整理・精査による統計学的なモンですからね。……っと、出ました」
「……やっぱり場所か」
差し出されたスマートフォンの画面に表示されているのはローゼンブラウ公国首都、アーテルベンから少し離れた場所の地図だった。数字の羅列の正体は緯度と経度である。小さい画面では見辛かったらしい、マークが私用のパソコンを立ち上げる。デスクトップにはゲーム配信プラットフォームや通話用アプリ、ニュース配信サイトのアイコンが見える。マークから送られた地図のURLを開き、示された場所を拡大表示する。
「工場、だな。マイナン・インポート・アンド・リペア社」
「えーと、中古車の輸入と修理をやってる会社みたいッス」
ニコラは虚を突かれた。
「メディカル・メルカじゃないのか。……別に15年前の事件の現場でもねぇな」
「全然違う会社スねぇ……」
2人そろってしげしげと地図をのぞき込んでいる。ちなみに15年前の事件現場はあの綺麗に清掃され、一度更地になったうえで地方自治体の建物が建っているらしい。
それで、と刑事たちは互いの顔を見合わせる。
「コレンシウ伯から貰った情報なんですよね」
「……てことは、多分、そういうことだよな。にしてもド田舎の工場だな」
地図を見る限り、周囲には草原が広がり、時折思い出したように商店や病院の廃墟、変電所などがあるくらいだ。
「まあ車は田舎にこそ需要がありますから。でも、この会社はいったい」
二人が首をひねった時、部屋のインターフォンが鳴り響いた。ビクリと肩を揺らした二人が扉を開けると、職場帰りらしい鑑識課のミネヴァが立っていた。
「ちょっと借りたい本があるんだけど、良いわね?」
問答無用で部屋に入るミネヴァを、部屋の主は止めなかった。彼女が何かただならぬことがあったのだと察するに十分な表情をしていたからだ。
「ホント話に聞いてた通り凄い部屋ね」
「まあな。……で?」
水の一杯も出さず、ニコラが話を促した。ミネヴァは端的に話を切り出した。
「小耳に挟んだんだけど、件の打ち切りになった公安が絡んだ行方不明者の捜索。個人でなく会社をマークしていたみたいよ」
「犯人は?」
問いながら、ニコラがデスクトップパソコンのモニターを動かす。そちらを見た彼女が一瞬目を丸くする。それを見逃さず、すかさず刑事が問う。
「マイナン・インポート・アンド・リペア社と、メディカル・メルカ社?」
ミネヴァは「さぁ」と言いたげに肩をすくめた。本当にそのあたりは分からないらしかった。彼女は何気ない調子でマークに声をかける。
「それでアンタ、忘れ物はちゃんとニックに届けたの?」
「そうだニック先輩、コレ、忘れ物です。あとウチから、コレも」
ゴトン、と重々しい音で新聞紙に包まれた何かが机、の上に積まれた本、の上に並んだ。顔をしかめたニコラだったが、恐る恐る新聞紙を開いて中身を見ると全身を硬直させた。
ニックの忘れ物は銀色の小さなソレ。銃弾であるのは明らかだった。
そしてもう一つ、ウチから、と言ってマークが持ってきたものは2つの
「ッ……! お、お前、マーク、お前……!」
命令違反どころの騒ぎではない。銃弾及び拳銃の無断の持ち出しは懲戒免職待った無しの行為である。さすがに慌てる相棒を、マークが必死に抑える。
「大丈夫です、アンガス邸からって言ったじゃないですか」
「あ……そっか、職場のは
「だから、アンガス邸にあった、私物です。ウチは代々軍人とか警察とか、そういうのを排出してる家なので、退官した人が記念品としてコレクション用のこういう銃を持ってるんです」
そう言われるとようやく納得がいってニコラが大人しく首を縦に振った。ある程度の成果を上げて、不正なく退官まで勤め上げた者には確かに組織からこういう品が贈られることがある。組織を抜けたとしても手元の凶器をみだりに使うことが無い信頼のおける人物である、という、組織からの信頼を意味する記念品である。
「ミネヴァ、こっちの銃弾は? 銀製か?」
「それはウチの倉庫にあったやつ。15年前の事件で鑑識課の一部メンバーが勝手に作ったやつなんですって。備品目録にも入ってない、組織的には無いものだから」
ミネヴァが答えた。どうやら15年前の吸血鬼カルト集団殺人事件を受けて作ったものらしい。そんな非科学的な、と思ったが、非科学的なものを科学的に解明しようとしたかつての国立科学研究局医学班や、吸血鬼は存在している体で話をしていた鑑識課長を思い出すと、ニコラはその言葉をぐっと飲みこんだ。
「あと、役に立つかどうか分からないけど、あの被検体6番、ウラディミル・コレンシウ伯は、流れる水が弱点だそうよ」
鑑識課職員はそれだけ言い残すと、さっさと官舎の自分の部屋に戻っていく。ニコラは大きくため息をついて目の前の銃弾を拳銃を新聞紙に包みなおした。
件のメモを改めて見る。緯度経度を示す数字の他にもいくつかの数字が並んでいる。
「こっちは日付と時間だな」
「この日時のこの場所に来いってことか……?」
指定の日時は二日後の夜。刑事たちは一つうなずくと、銀の銃弾を回転式拳銃の輪胴に装填した。
「それにしても、コレンシウ伯はどうやってこの倉庫の場所を突きとめたんでしょうね。公安が時間と人手をかけてようやく本懐に手をかけようとしてるのに、たった数人で?」
マークの言葉で、ふと思い浮かぶのはあのコレンシウ家の家事手伝いロボットとその「創造主さま」のことだった。液体の入ったグラスを運び、ワインを注いで一つも粗相しないやたらと高性能なあのロボット。それを作ったのがあのシルバーグレーの髪の執事ダンだと言っていた。いやまさか、と思ってニコラはごまかして首をひねってみせた。
***
「やっぱり遠距離武器だよなぁ。ストリボーグは飛べるもんなぁ」
「飛べない私たちが戦うならどうしても、ね」
コレンシウ邸の地下階武器庫、背中合わせで巨大な重火器の手入れをしているのはアビーとテオだった。ふいにテオがその手を止めて、相方の背にもたれかかった。
「……アビー、ありがとね。あの時、僕の傍にいてくれて」
「私の方こそ、ですわ」
それだけで相手の言いたいことが分かって、アビーもまた軽やかな声で喋りながら相方の背にもたれる。
「親から逃げたくて家を飛び出して、そしたら変なのに掴まって、病院みたいなところに押し込められて」
言葉を止めて、ぎゅっと目をつぶる。鼻の奥に血の臭いがよみがえる。思い出したくもない、口に出すのもはばかられる記憶だった。テオもまた同じような表情になってアビーの手を握った。
「でも、テオがそばにいてくれたから。だから耐えられましたの」
「アビーがいなかったら、きっと閣下に会う前に死んでたかもしれない」
沈黙が漂った。心地の良い沈黙だった。
「そういえばテオは今後どうしますの?」
「今後?」
「進路ですわ。次の年度に卒業論文を書いたら、一応学士修了でしょう? 私はこのままもうちょっと大学で勉強しようかな、と思ってるんだけど。多分いまの成績なら奨学金も取れるから伯にご迷惑もかけずに済みそうだし」
「僕ももうちょっと勉強するつもり。修士を取ったら」
「うふふ、ワイナリーに就職、でしょう?」
片割れの言葉を継いで彼の方を振り返ったアビーがいたずらっぽく笑った。テオもにっと歯を見せて笑い、互いの額をそっと触れ合わせる。
「そう言うアビーは美術コレクターの仕事のお手伝い、でしょ。そしたら僕ら、ずっと閣下と一緒にいられるもんね」
親しげなしぐさにアビーはほころぶように微笑んで、無邪気な子供のように互いの手を握り合った。不思議だよね、と不意にテオが囁く。
「閣下に引き取られてすぐのことは怖くて信頼できるのか分からなくて威嚇してたのに、今じゃ大好きなんだもん」
言われて、アビーも思い出す。あの頃は2人そろって人間不信に陥っていた。その警戒を解いたのはポポだ。人間は信じられなくても、ひとまず機械なら信じられた。生まれたてのヒヨコのように後ろをついて回る2人を最初に世話したのは家事手伝いロボットのポポだった。この家に打ち解けるようになったのはその後だった。そのなつかしさに二人はまた笑みを浮かべた。
一方、同邸宅の上階で、ウラディミル・コレンシウと執事ダンが睨み合っていた。
「考え直してください旦那様、今更あの子たちにそのようなこと」
「もう決めたことだ。というより、15年前から決めていたことだ。そうだろう? 俺がアビーとテオを育てたのも元はと言えばそのためだ」
「しかし」
「くどいぞダニー。そもそもお前だって、最初にそう決めた時に賛成していただろう」
「それは、そうですが」
執事はぐっと手を拳に握ってうつむく。呟く声はかすれていた。
「……私はもう、あの子たちに情が湧きすぎてしまいました」
ウラディミルの返事はため息だった。それ以上議論するつもりはないらしい。話は終わりだ、と言った主人を執事はキッと睨んだ。
「旦那様、何もがかも思い通りになると思ったら大間違いですよ」
それだけ言い残し、執事は颯爽と部屋を出ていく。そんなダンを迎えたのは家事手伝いロボットのポポだった。ちょこんと廊下にたたずんで、犬を思わせる頭部パーツをコテンとかしげている。
「創造主さま、大丈夫ですか? わたしが一緒にいます」
幼気な声色でそう言った機械の器用な手が、ダンの手をそっと握って揺らした。それは、まだ幼かったころのアビーとテオが泣いたときにいつもダンがしてやった仕草だ。
「わたしはいつでも創造主さまの味方です」
機械の手がそっとダンの手を引いてキッチンに向かう。大きな冷蔵庫の扉に貼られた、子供の手による伸び伸びとした線で描かれた絵が目に留まってダンはニコリとポポに笑いかけた。
***
2日後の夜。のどかな丘陵地帯に一台の車が停まっていた。なだらかな凹凸を縫うように道路がある以外には、ぽつぽつといくらかの建物があるくらいで、他にはただ草が風に揺れる、絵にかいたようなド田舎である。
「伯、人が出てきましたわ! 廃病院って話だったのに」
月と星だけが明るい夜の暗闇の中、アビーの指先が向こうに見える建物を迷いなく指さした。テオが車窓から髄を身を乗り出す。半人前とはいえ、吸血鬼の基本的な能力が眷属である彼女たちには備わっていた。
「殺すんですか? ストリボーグは」
車を出て、カーボン弓を組み立てながらテオが問う。肩に引っ掛けた矢筒に入った矢の先端には銀の矢じりが付いている。答えるウラディミル・コレンシウは長い金髪を後ろで高く括って、
「そのつもりでいる。と言っても、殺すのも棺桶に再び封じるのも骨が折れるだろうが」
「伯、私たち供回りは必要ありませんの?」
「ああ、大丈夫だ。それに、ダンとポポが付いて来てくれる」
おずおずと言ったのは、自分の身長ほどの大きさの超長距離銃の準備をするアビーだった。養父は不安げに自信を見上げる子供らに笑いかけると、車の後方トランクルームを開けた。そこからブォン……と音を立てて4機のドローンが飛び出した。1機はウラディミルのそばを飛び、残りは先行して廃病院へと向かう。3人の耳に装着した通信機から幼気な機械音声が喋りかけた。
「旦那様、ドローン3機は先行して病院内の哨戒と、行方不明になっていた人々の探索を行います」
「了解、俺も突入する。ポポ、ドローンの操縦は頼んだ。ダニーはあちらのオペレートを頼む」
ウラディミルはアビーとテオを振り返ると彼らと目を合わせ、二人の頭を撫でた。
「ではな、無事でいろよ」
そう言うと丘陵地たちを駆けて助走をつけ、そのまま背から黒い翼を広げて吸血鬼は一路、向こうの廃病院を目指して夜空を飛んでいく。そのうち彼の姿は闇に消え、廃病院と銘打たれているはずの建物から悲鳴が聞こえた。
「やっぱり、あそこがメディカル・メルカの実験拠点……」
「ダンさんの調べた通りだ」
真っ暗だった施設にいくらかの明かりがともった。数人の施設職員が侵入者ウラディミルを撃退しようとしているらしいが、そもそも吸血鬼相手に人間が立ち向かおうというのが無謀な話である。銃を手にしたウラディミルの影が異様な気配を伴って膨張して質量を持ち、人間たちを掴んで投げ飛ばす。だが、それでも勇敢な者はいる。銃を構えているのは長い金髪の男だった。
「くそ、邪魔しやがって! この研究が完成すれば無敵の吸血鬼が完成するんだ! そうすればストリボーグ殿を陣頭に立てて世界は思うがまま」
「吸血鬼兵の起用で世界征服なんざ、日本のマンガでとっくにやり尽くしたネタだぞ」
ひらり、と跳躍して弾丸をかわしたウラディミルが呆れたように言って男を気絶させた。この男こそ、テリオンの町でアンドレイに接触したところをリッキーに目撃されたメディカル・メルカの社員なのだが、そんなことはウラディミルのあずかり知らぬ話である。
あたりがシン……と静まり返った。
「こちらポポ。地下階に続く階段を発見しました。地下一階の扉の向こう、どうやら中に人が大勢いるようです、例の行方不明者でしょう。……地下2階を探索中のドローンが落とされました!」
機械音声が焦ったような声を上げた。ウラディミルもまた感じている。足元からせりあがって来るその凶悪な気配を。その凄まじさに、彼の秀麗な顔に冷や汗が伝う。せりあがった気配は、古ぼけて打ち捨てられた病院1階エントランスの暗がりで形を成した。襤褸切れをまとったソレが口を開いて牙をのぞかせて少年じみた声を上げる。
「このストリボーグの眠りを覚ますのはお前か、弱き者よ。膝をついて許しを請え」
「たかだか数百年早く生まれただけで図に乗るな、ストリボーグ。人間を見下すどころか同胞集団すら忌み嫌い、ようやく安寧を得た同胞を危険にさらす。お前は獣以下だ」
双方の黒い翼がはためいて、空中で激突する。ストリボーグの小柄な体は驚くべき膂力を持ってウラディミルを捉え、牙の生えた口を大きく開いて彼の顎を食いちぎった。とたんにあたりに血が飛び散る。だが不老不死の生き物が怯むことはなく、再生させながら素早く銃をストリボーグの腹に押し付けた。サイレンサーを付けて威力の半減した銃の弾丸は貫通せず、吸血鬼の腹の中に留まった。
「ッう、ぐ、ぐああぁっぁぁあッ、舐めるなよ、弱き者!」
ストリボーグはとっさに自分の手を腹に突っ込んだ。1930年代の国立科学研究局による実験で銀への耐性を付けなかったこの古老の吸血鬼は、それに触れると著しく再生能力を低下させる。必死に自身の臓腑をかき分けて銃弾を取り出そうとして、大きく隙ができるこのタイミングを、外で待機しているアビーとテオが逃すはずもない。
テオが車のボンネットから腹ばいで構えたクロスボウと、車で身体を支えたアビーが構えた長距離射撃中から、それぞれ弓と銃弾が飛び出した。だがそれを阻むようにストリボーグを中心に強烈な風が渦巻いた。弓は吹き飛ばされ、銃弾は狙いが逸れた。すかさずウラディミルが質量のある自分の影で風を切り裂いてナイフで斬りかかるが、それはストリボーグが自分の腹から銀の銃弾を取り出すのと同時だった。
銃弾を取り出して打ち捨て、瞬時に自分の腕全体を質量のある影で覆ってナイフを弾き飛ばす。そのまま羽をはためかせて勢いをつけ、ウラディミルの身体を蹴り飛ばした。吹っ飛んだ身体は病院エントランスの壁にうちつけられ、その衝撃で壁がへこむ。そのまま彼はふらふらと床に倒れた。
「やはり他愛ない。あのふざけたチェキストどもの国立科学研究局から逃げることもできなかったお前では、このストリボーグには敵わない」
小柄な少年の姿をした吸血鬼はそう言って不意に足元に視線を向けた。地下には霊安室がある。
「あの勇敢な者どもが入って来たか」
そう言うと、ストリボーグの身体がゆっくりと床の闇に沈み始めた。
「待て、ストリボーグ……待て!」
ウラディミルが立ち上がったが、それで待つ由もない。ついに吸血鬼の身体は床の中に沈み切った。
***
「ここが指定の場所、だよな……」
「マイナン・インポート・アンド・リペア……間違いないスよ」
吸血鬼たちによる激闘が行われている病院から少し離れた地点。自動車輸入整備工場の前に、一台の車が止まった。夜なので当然工場のシャッターは下ろされ、周囲に灯りはない。車から出てきたのはニコラとマーク。非番のため首都アーテルベン郊外まで夜間のドライブに来た二人である。ただし、その懐には銀の弾丸を装填したクラシックな回転式拳銃を仕込んではいるが。
「誰もいない?」
懐中電灯で周囲を照らしたニコラが首をひねった時、突然ポケットに入れていたスマートフォンが音を立てた。おそるおそる取り出すと、意外にも相手はウラディミル・コレンシウその人だった。思い返せば解剖準備室で出会ったあの後、連絡先を交換していたのだ。だが通話ボタンを押して彼らに喋りかけたのは、あのシルバーグレイの髪の執事だった。
「ああ、よかった。私、コレンシウ家執事ダンと申します。早速ですがお二人とも、マイナンの工場の前に来ていらっしゃいますね?」
「え、ああ、はい……」
「ここから先は私がオペレートを努めます。まずお二人とも、工場正面入り口の郵便受けの上に……」
「これは……通信機?」
言われた通りの場所に、仕事でも時折使うものを見つけて、刑事たちはひとまず大人しくそれを装着した。ここから先、何が起きるのであれ、もうなんにでもなれというやけっぱちな覚悟が彼らをそうさせた。
「聞こえますか?」
耳に装着したイヤホンマイクからダンの声がする。
「というかコレンシウ伯は? どこにいるんスか?」
「近くにいらっしゃいます。お二人とも、裏手に回ってそこの扉から入ってください」
鍵は、と言う暇も無かった。古い工場の癖にやたらと厳重そうな電子ロックが軽快な音を立てて解錠したことを知らせた。刑事たちは利き手に銃を持ってそっと扉を開く。彼らの背を追い越すように、機械音を伴う何かが先に工場内に入った。ドローンである。ドローンはパッと無人の工場内を照らし出した。
「それはこちらが用意したドローンです。お二人とも、後をついて来てください」
ドローンにはどうやらカメラと照明の機能が付いているらしい。イヤホン越しのダンに先導されるまま、二人は指し示された扉を開いた。奥は事務所に繋がっているらしい。簡素なカギしか付いていない給湯室や更衣室を横目に最も奥にある扉にたどり着くと、その電子ロックが解除される。刑事たちが苦い顔をしたのも無理ないことだ。
「ダンさん……やってますね……?」
「おや、なんのことだか」
「こんなタイミング良く電子ロックが開くってのは、その、あの」
「私にはわかりかねることでございます。お二人の普段の行いが良いからこういう奇跡が起こるのでは?」
一方でダンは始終すっとぼけている。刑事たちは額を抑えてため息をつくが、不法侵入という罪を犯しているのは彼らも同じであるので口をつぐんで大人しく扉の奥に入った。ドローンが照らし出すそこは、資料室、といった様子だった。
「床に扉がありませんか?」
ダンの言葉で、二人は足元に目をやる。そしてごくりと生唾を飲み込んだ。確かに床に扉のようなものがある。取っ手のようなものが付いていて、開ければおそらく下に空間が広がっている。取っ手に手をかけたニコラ刑事が相棒に声をかけた。
「マーク、射撃の成績、お前の方が上だよな」
それだけ言ってニコラが地下へとつながる扉を開けた。そこから下へと続く階段が伸びている。ドローンが先行し、イヤホンから「人はいません」とダンの声が聞こえた。
ニコラとマークは銃を構えて階段を降り、お手本のような動きで周囲を警戒する。階段を降りた先には、アスファルトで作られた長い通路が伸びていた。どうやら灯りがあるようで、この通路が日常的に使われているのは明らかだった。
そのまままっすぐアスファルトの地下道を歩く。靴音がいやによく響き、壁に二人の影が長く伸びる。どれほど歩いていたか、行き止まりにたどり着くと、ドローンが浮上して外に出る扉があることを伝えた。
「お二人とも、本当に行かれますか?」
不意にダンが尋ねた。だが二人には最初から迷いはない。上に向かう梯子を上り、天井を押し開ける。どうやら、そこも建物の中だった。オペレーターがすかさず情報を伝える。
「ここは地下1階です。下にもうワンフロアあるようです。目の前の扉は霊安室です」
「霊安室……?」
「病院スね、ここ。マイナンの工場の周囲にある施設で霊安室なんて持ってるのは廃病院くらいです」
マークの言葉で、ニコラの脳裏にマイナン・インポート・アンド・リペアの周辺地図がよみがえる。その霊安室の表示がされた扉の電子ロックがささやかな音を立てて外れた。刑事たちが互いの顔を見合わせて、その扉を勢い良く開いた。
「こ、これは……!」
ドローンに照らされて浮かび上がったのは、ベッドが整然と並んだだだっ広い空間だった。霊安室などという規模ではない。ベッドには病院着を着た老若男女が横たわっている。突然の乱入者に誰もがゆっくりと体を起こした。皆顔は青白く、やせこけ、疲れが滲み、中には体の一部が奇妙に変形している者もいる。人々はニコラ達を見るとその顔に怯えを現した。
「もう嫌、やめて、許して……!」
「こんどは俺たちをどこに連れて行くんだ」
「もうやだぁ! パパ、パパぁ、お家に帰りたいよぉ……!」
ワッと破裂したように泣き出したのはまだ幼い少女だった。未就学児と思しき彼女に、周囲の大人たちに必死に声をかける。
「大丈夫だハンナちゃん。おっちゃんたちが絶対にパパのところに帰してやるからな」
「そうよ、おばちゃんたちがついてるわ」
ドローンのライトがその様子を照らし出し、明らかになった少女の顔に刑事たちは大きく目を見開いた。彼女の幼い顔に見覚えがあったのだ。テリオンの町のパブで出会ったコボゥ氏から貰った娘ハンナ・コボゥの捜索ポスターの、その顔なのだ。
ニコラが素早くポケットからスマートフォンを取り出し、緊急通報の短縮ナンバーを打ち込む。その隣でマークが落ち着いた声で病院着の人々に対して名乗りを上げた。
「我々は警察です、既に通報もしました。少し時間がかかりますが、これから警察が皆さんを救出に来ます」
人々が水を打ったように静まり返る。だが次の瞬間、上からドゥンと大きな音と衝撃がして、人々はぎゅっと身をすくませる。ぼそぼそと喋る声は震えかすれていた。
「きゅ、救出って言ったって、なんかさっきから上がずっと騒がしくて……」
「吸血鬼が、戦ってるの? 量産に成功したら兵士として出荷するとか、ここのスタッフが行ってて」
「この変形した腕、吸血鬼化の失敗らしくって、ははは、なんだよそれ……」
イヤホン越しにダンが言った。
「コレンシウ伯が上でストリボーグと戦っておられるのです、その衝撃でしょう。ニコラさん、マークさん、お二人にはこの場にいる人々をさっきの地下通路を使って外に連れ出していただきます」
了解した、と二人が返事したが、半開きになった扉の前に何かが立った。否、天井から黒い影が落ちて、それが形を成したのだ。襤褸切れをまとった小柄なその姿は、アンガス邸襲撃の犯人。すなはちストリボーグそのもの!
きゃあッと人々が悲鳴を上げて混乱する。刑事たちがストリボーグに組み付こうとするが、翼の生えた身体はひらりとそれをかわしたかと思うと、狂喜の声を上げて彼らの胸ぐらをつかんだ。
「キャハハハハ、待っていたぞ強者ども!」
「ニコラ様、マーク様!」
通信機からダンの悲鳴じみた声が聞こえる。
ストリボーグは小柄な身体で大の大人二人を掴んで翼をはためかせ、霊安室と銘打たれた部屋を出る。途端にドローンから伸びた銃口が弾丸をまき散らしたが、吸血鬼は卓越した動体視力と軽業めいた動きでそれをかわす。そのまま舌打ちを一つして、大きな羽根でドローンを地面にたたき落として、上階へと続く階段に向かう。
「ダンさん、大丈夫ですか?!」
「こちらのセリフです、ニコラ様!」
「……大丈夫!」
最初こそ空を飛ぶ吸血鬼に担ぎ上げられていることに目を白黒させていた二人だったが、マークが回転式拳銃を取り出して引き金を引いた。ガウン、と大きな音を伴ってストリボーグの身体が階段を飛び越して上階に吹っ飛び、発砲者はその反動で床に転げ落ちた。
ストリボーグと一緒に吹っ飛んで病院エントランスの床にもんどりうったニコラは、それでも吸血鬼の腕を離さず、素早く態勢を立て直すと血臭を巻き上げる小柄な身体に馬乗りになって組みついてその動きを封じた。そしてあまつさえ、問いかけた。
「お前、ストリボーグだな? アンドレイという男を覚えているか? お前が殺した男だ」
「あの男か。研究者共の実験対象だったのだが、美味そうだったのでつまみ食いしてしまった。空を飛んでいると月が冴え冴えとして、風が強く、良い夜で……つい、牙が滑った」
妖しく笑った次の瞬間、不老不死の生き物は噴火する火山のような勢いをもってニコラを上に跳ね飛ばし、暴力的に笑いながら嵐のような風を巻き起こす。
「ハハハハ、まだだ、まだ、こんなものじゃないだろう、もっと、もっとだ、強き者どもよ!」
エントランスの床に散らばる割れガラスやメスを巻き上げて凶器となった風に、さしもの勇敢な刑事たちも怯む。ストリボーグはその彼らをめがけて、間髪入れず質量を持った自身の影を勢いよく差し向けた。あちこちぶつけて痛む身体に二人は逃げることが出来ず、容赦ない蹂躙と死を予感する。
しかし。
黒い翼を伴った影がするりと割って入り、ストリボーグの影を受け止めて防いだ。
長い金の巻き毛がニコラとマークの視界に眩しく映った。ウラディミル・コレンシウその人である。
「お前……!」
目を見開いたニコラを、その美貌が叱咤する。
「何してる、今のうちに下の霊安室の人々の保護を!」
だがすかさずマークがウラディミル・コレンシウの身体すれすれから、ストリボーグの胴部めがけて発砲する。巻きあがる風に小さな銀の銃弾が防がれるかと思ったその直前、ストリボーグの頭がボッと奇妙な音で血をまき散らしながら掻き消え、それと同時に風が止んだ。銀の銃弾はやや狙いが逸れたものの、肩を貫通してそこから血が吹き出す。
「ッ! ……ッ、ッ!」
頭を無くして声も無く床にへたり込んだストリボーグの傍に金色の巨大な弾頭が転がった。当然、銀の弾丸などではない。純粋な質量と速度によって目標を破壊する質量弾頭である。動きを止めた吸血鬼の身体に続けざまに銀色の矢が打ち込まれ、血だまりの中にハリネズミのようになった背中が崩れる。ガランガランと音を立てて矢がリノリウムの床に散らばった。
(やったか……?)
ニコラが銃を構えた腕を下ろそうとする。だが次の瞬間、床に崩れてもう人の形を保っていなかったはずのものが声を放った。
「銀? 確かに効くが、この程度ではこのストリボーグは殺せんぞッ!」
床にぶちまけられていた血が意思を持つかのように動いて、凄まじい勢いでストリボーグの崩れ落ちた身体に集約し、その肉片を巻き上げながら噴水のよう沸き上がり、再び人の形を持つ。
「このストリボーグは不老不死ゆえ。さあ人間、強き者たちよ、まだまだ、飽き足らないよなぁ!」
ストリボーグの身体が俊敏に動いてウラディミルを突き飛ばし、銃を構えるマークをめがけてカッ飛ぶ。
「メチャクチャにもほどがあんだろ! ふざけてんじゃねぇぞ、このデタラメ野郎!」
文句を言いながら発砲したのはニコラ、飛び出した銀の弾丸にストリボーグが一瞬怯んだその隙をついてウラディミルが手持ちのナイフを突き立てた。の塗装をした儀礼仕様のサバイバルナイフである。
「この俺が弱き者だと?! ストリボーグ、忘れられた神の名を持つ者が言えたザマか!」
「カビ臭い研究所で研究者共を殺すこともせずただ泣いて同胞に助けを求めた! 自分を売った同胞に報復もしなかった! そして今もまだ泣いている、これが弱さ以外のなんだと言うのだ!」
銀のナイフに全身を痙攣させながらもキャハハハハ、と心底愉快で仕方ないとばかりに吸血鬼が笑う。ニコラはそこに組みつきながら、血なまぐさい演説を無視してただ一言、相棒の名を呼んだ。
「マーク!」
それだけで彼の言うことを理解して、相棒は振り返らずにまっすぐに階下の霊安室に向かって駆け出す。
(最優先は市民の安全!)
刑事である彼らの勝利条件は、ストリボーグを倒すことではない。市民の安全を確保し、被害者を保護することに他ならない。ついでにマーク個人の話をするなら、吸血鬼同士の戦いや因縁など知ったこっちゃない、というのが本音である。マークはアイカメラを兼ねたドローンを失って沈黙を保っていたダンに指示を仰いだ。
それをニヤニヤ笑いで見守っていたローゼンブラウにおいて最強を謳われる吸血鬼の気配が、ウラディミルとニコラの腕の下で膨張した。
「我ら吸血鬼は血と夜の擬人化、破壊そのもの、
そう言ったかと思うと、組みついていたはずの襤褸切れをまとった身体がその場から消えた。否、無数のコウモリへと変化させて飛び立ったのだ。ストリボーグの身体だったものたちは、雲霞のごとくウラディミルに押し寄せる。応戦するように彼もまた羽根を広げて自ら雲霞の中に突っ込んで身体を霧散させる。群体と群体が上空で激しくぶつかり合い、ニコラは銃を構えるものの双方のあまりの素早さに発砲できずにいる。
コウモリの群体の片方が激しい風を巻き上げる。ストリボーグの能力でウラディミルだった群体が散らされ、後退する。だがそこに、ガスを吹き出す何かが投げ込まれた。途端にストリボーグだったコウモリたちが力を失ってバタバタと床に落ちていく。
「伯、御無事で!?」
「閣下、今のうちに態勢を整えてください!」
向こうの暗闇から、割れた窓を超えてエントランスに入ってきた2つの人影が見える。闇にたたずむそれが誰であるのか、人間であるニコラには見えない。だが声で分かる。そして夜目の利く吸血鬼には見えている。そこにいるのはアビーとテオ。それぞれ肩に巨大な銃と、堅牢なボウガンを担いでいる。人の形を取り戻したウラディミル・コレンシウが呟いた。
「硫化アリルのガスボムか。……アビー、テオ、二人とも、ちょうどいいところに来た」
「……お前たち、15年前に食らい損ねた子供か。感心なことだ、弱き者。わざわざストリボーグにあんな上質な食事を用意してくれるとは!」
不気味な声がして、倒れたコウモリたちが音もなく集まって元の姿に戻り、黒い翼を大きくはためかせて稲妻のようにアビーとテオをめがけて襲い掛かる。間髪入れず、そのがら空きになった背中にウラディミルが襲い掛かる。
(
一瞬、嫌な予感がニコラの脳裏をよぎる。
だが次に彼が見たのは、アビーとテオを庇うようにしてストリボーグの腕に腹を貫かれた養父の姿だった。彼はそのままストリボーグの首に銀のナイフを突き立てたと思うと、背中の羽根を大きくはためかせて腕に二人の子供を抱えてその場を離脱する。最強を謳われる吸血鬼の身体が再び痙攣して震える。だが本人はそれすら楽しんでいるようにも見えた。
大きく穴の開いた身体からは血と臓物がこぼれたが、構わず宙を飛んでアビーとテオをニコラの前に降ろして彼の方に押しやった。
「ニコラ・マニウ刑事、この子たちを連れて被害者たちと一緒にこの場から撤退してくれ。この場は危険だ」
通信機からは、執事のダンを介して、マークが地下に押し込められていた被害者たちを落ち着かせながら、確実に撤退の準備を勧めていると報告が入る。ニコラが何か言うよりも前に文句を言ったのは当のアビーとテオだった。
「馬鹿おっしゃらないでくださいまし、残りますわ」
「貴方は僕らの命ですから、倒れられては困ります」
その二人の声を、養父は無視した。15年間で初めてのことだった。
「ニコラ・マニウ刑事、この子たちは15年前の事件の被害者だ。死にかけていたことを理由に特別な手当てをしてしまったこと、実家に帰りたがらなかったことを理由にそのまま当家で預かり養育したが、この子たちは人よりも多少身体能力が勝る以外は普通の人の子だ」
二人の養父ウラディミル・コレンシウ伯の言葉はいたって冷静で落ち着いていた。鮮やかな色の瞳が真っすぐにニコラを見ている。それはあるいは、あのテリオンの町のパブで泣きながら少しだけ笑ったコボゥ氏と同じ目だった。
「遅くなってしまったが、この子たちを人間社会に送り返す。ニコラ刑事、貴方にはその役目を頼みたい」
一瞬真顔になってその言葉の意味を理解した人の子たちが父と、あるいは主と慕った男に腕を伸ばす。
「待って、待ってくださいまし、伯!」
「どういうことですか、今までそんなこと一回も」
「15年前から決めていたことだ。いずれ必ずお前たちを普通の人間社会に戻す。色々あって遅くなってしまったが、これが最後のチャンスだ。ローゼンブラウの捜索願い届の有効期間は15年、今年度いっぱいで有効期限が切れる」
その有効期限が切れれば、アビゲイル・フォートナーとテオドール・アパランチは死亡扱いとなる。そうなればもう本当に普通の人間社会で生きていくことはできなくなり、残るのは不老不死の吸血鬼として生きていくという選択肢だけになる。
「紋章局にもすでに手続き書類を提出している。明日の昼にはコレンシウから籍が外れる手はずだ」
養父は子供たちに笑いかけ、それからニコラを見た。泣き出す前の顔だった。
ニコラは首を縦に振る。耳に装着したイヤホンから、ダニーの沈痛なため息が聞こえた。
「私たちを一人前の吸血鬼にしてくれるんじゃなかったんですの? ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃありませんの」
「嫌です、閣下、僕たちを離さないで、僕たちの全部はもう、あなたで出来てるのに……」
「だからこそ、だ」
答える養父の声もまた沈痛だった。あの泣き出す前の顔で胸にすがる子供らの頭をそっと撫でてから、肩を掴んで引きはがす。愕然としてウラディミルを見上げる眷属たちの目に怒りとも悲しみともとれる滲んでいる。
「あの時俺がお前たちを助けて、そのまま育てた。だがそれは結果としてお前たちの身体を、心を、生き方を、人でないものにして狂わせた。……お前たちが俺に向ける感情はただの盲信だ。命令だ、我が眷属たち。この場を去れ」
吸血鬼コレンシウ伯が異様な威圧感のある声で命令し、ストリボーグに向き直った。主人から眷属に対する強制力のある命令である。眷属でないニコラですら圧倒され、アビーとテオを連れてこの場を後にしようとする。
だが当人たちがそれを望まなかった。それどころかいつも貴族然とした優美で余裕のある表情を表す整った顔を凄まじい形相に変える。そして、驚異的な意志力を持って主人からの命令を突破し、それどころかウラディミルの胸ぐらをひっつかんで引き寄せた。今、もはや理不尽とも言うべき力がアビーとテオの内側に燃えていた。
「盲信ですって?! まさか、私たちが何も知らないとお思い?」
「知ってるんですよ。閣下が昔から僕らのためにわざわざスケジュール調整して都合を開けてることも、僕らが昔描いた落書き全部残してるのも、今だっていもしない僕らの名前を呼んじゃうのも、僕らが好きそうだってアレコレ物を買い込んでるくせに出せなくって物置に溜め込んでるのも。全部知ってるんですからね」
「憎からず思う命の恩人にその後もずっとそんな風に思われて、同じ気持ちで答えないなんて、不可能な話ですわ」
養父の身体が揺らぐ。心なしか顔が赤い、どうやら知られたくない話だったらしい。そんな彼を見つめて、アビーとテオが目を細めて諦観交じりに微笑む。イヤホンの向こう側でダンが盛大にため息をついたのが聞こえた。
「まったく、その子たちを思い通りにしようとする方が無謀なんですよ。意識の途切れるほどの痛みと死の淵にいながら、幼い身体で助けを求めてコレンシウ伯に自ら手を伸ばした剛の者なんですからね。……ニコラ様、マーク様が復旧したドローンを先頭に、被害者たちの脱出を開始しました。時機に警察に合流します」
だがそこで、ガラン、と物々しい音がした。ストリボーグが時間をかけて身体を再生して、銀のナイフを首から抜いたらしかった。ケタケタ、ケタケタと最強の名をほしいままにする吸血鬼が笑う。あるいはそれは、悪魔のささやきかもしれない。
「かわいそうな子供たち、その弱き者に騙されているぞ。そいつは別にお前たちを愛してはいないし、大切にも思っていない。そいつが一番愛していて大切なのはそいつ自身だ。そうだろう?」
復活したストリボーグが余裕たっぷりにウラディミルに詰め寄った。身体そのものは小柄だというのに、異様な圧力を発して彼を追い詰める。そして優雅とも言える身振りで自分より大柄な彼の身体をひっつかんで上方に放り投げた。続けざまに質量を持った自分の影を鞭のようにしならせ、アビーとテオを打ち据える。双方すぐに復帰して人外特有の瞬発力でストリボーグに殴りかかるも、半人前の力ではあっさりと封じ込められてしまう。
(少なくとも今の装備でアイツを殺すのは無理だ。いや、そもそも……)
その様を見つめながらゆっくりと地下階への階段に向かって後退するニコラの脳裏で、いつだったかの相棒の言葉がよみがえる。共生が無理だから殺すのではなく、隣の社会のヒトとして最大限誠実に向き合う。そんな風に言っていた。ニコラは通信機越しにオペレーターに声をかけた。
「……ダンさん、ちょっと手伝ってくれるか? この場はあの3人に任せる」
言うや否や、ニコラは地下階に向かって走り出した。ストリボーグはそれに気付いていたが追うことはしなかった。戦い、狩る楽しみをここで潰すのはもったいないと思ったのだ。
気を取り直して、ストリボーグは倒れたウラディミルの前に屈みこんだ。再生能力で傷は治っているものの、金の巻き毛は乱れ、苦悶に顔をゆがめ、うなだれた身体を震えさせている、昔と同じか弱い吸血鬼の前に。
「弱き者よ。100年近くの昔、同胞の手によって売られ、同胞のための生贄となり、誰にも助けてもらえなかった、哀れな子供よ。お前はそんな自分を、15年前に拾った子供に重ねているだけだ」
どこか面白がるような声に言われて、かつての被検体6番はくちびるを噛み、強く目を伏せて二人の養い子たちから顔を背けた。被検体13番は意地の悪い笑いを浮かべてアビーとテオに喋りかける。
「こいつはな、お前たちを通して、お前たちに『あの時自分がしてほしかったこと』を施すことで、あの時誰にも助けてもらえず、誰にも愛されなかった自分を慰めているのだ。お前たちのことなんてこれっぽっちも見ちゃいないし、これっぽっちも愛していないのさ」
しばしの沈黙がその場に漂った。表情の削げ落ちたアビーとテオがゆっくりと二人の吸血鬼に近寄る。その重々しい足音に、被検体6番は処刑を待つ罪人のような面持ちでそこから身動きの一つもせずにいる。
アビーとテオがストリボーグを追い越し、ウラディミルの前で足を止める。養父は一瞬だけ子供たちの顔を見たものの、すべてを受け入れると目を閉ざす。
ストリボーグがにんまりとくちびるを弧にして笑みを描いた。次の瞬間、その後頭部に銃口と矢が押し付けられた。背後から立ち上る殺気に、最強を名乗る不老不死の吸血鬼の全身が今、生まれて初めて緊張に硬直し、冷や汗を流した。
「知ったこっちゃありませんわ。人間関係は何をしてくれたかが全てですのよ。そんな当たり前のこともご存じないだなんて、世慣れしていなくて可愛らしくておいでね」
「というか、インナーチャイルドのケアみたいなものじゃん。別に騒ぐほどのことじゃないでしょ。あ、
ストリボーグの頭がミンチになって吹っ飛んだ。ガラン、ガラン、と音を立てて薬きょうが落ちる。二人が唖然としたウラディミルに手を伸ばした。
「助けに来ましたわよ、伯。……あんまり良くない熱の入れ方だってミスターマニウにも言われましたのよ。でも吸血鬼の眷属になって、心の在り方も人間とは変わってしまっていて、その上で自分で考えて決めましたの。あなたの傍にいるって」
「僕も一緒にいますよ。そもそも閣下、あなたは寂しがりなんだから、僕らのことを手放せるわけないんです」
二人の勝ち誇ったような笑みにかつての被検体6番は心地の良い諦観を滲ませて微笑むとゆっくり頷いた。不意にその瞳から涙がこぼれて流れると、それはジュウジュウと嫌な音を立ててウラディミルの白皙の頬を焼いた。顔色を変えて傍に膝をつくアビーとテオに、養父は苦笑して告白した。
「これが俺の弱点。流れる水に弱いのだ。ああ、ほら、いつも言っているだろう、そんなに泣きそうな顔をするな」
どこか子供のような声色で言った彼は、二人の手を取って立ち上がった。ふいに通信機のイヤホンから呆れたような声が飛んできた。執事のダンとポポである。
「だから言ったじゃないですか、アビーとテオを手放すなんてそもそも無理なんだからやめた方が良いって」
「そうです、創造主さまのおっしゃる通りです。どうして旦那様は出来ないし必要もないことに必死になっていたんですか」
ウラディミル・コレンシウが言葉に詰まった。これまでさんざん止めた方が良い、いくらなんでも無茶が過ぎる、と言われていたのを彼が無視したのは事実だった。あまりに旗色が悪いのでゴホンと咳払いをして話を切り替える。
「しかしどうしたものかな。このままだとまた復活するぞ、ストリボーグは。我が事ながら不老不死とは厄介なものだな」
「ご安心を、おとぎ話にのっとって、ニコラ・マニウ刑事とマーク・アンガス刑事が準備をしておられます」
不意に3人の耳元に飛び込んできたのは家事手伝いロボット・ポポのあどけない声だった。
「現在、両刑事が地下2階でストリボーグの棺桶を探しています。そこに彼を封印しましょう。そのためにはまず、3人がかりでストリボーグを地下に連れて行ってもらわなければなりません」
「旦那様、報告です。被害者たちの退避は完了、現在、全員がマイナン・インポート・アンド・リペアの工場の外で警察の到着を待っています」
続けて連絡を入れたのは執事ダンだった。
その時、ストリボーグの頭部が再生を開始した。アビーとテオが少し背伸びしてウラディミルの両肩に縋り付き、その首筋にそっと指を這わせて囁いた。
「アレを追い詰めるには、半人前の力では足りませんわ」
「ください、あなたの血を」
蕩けるような微笑を浮かべたくちびるの合間から覗く牙がドキリとするほどきらめいて、たまらなくなったウラディミルは二人の後頭部に掴んで抱き寄せ、頭を下げるようにして彼らの口元に己の首筋を晒した。
首の左右にひたりと濡れた舌が触れて、薄い皮膚を鋭い牙を突き破る。その得も言われぬ感触と流血の歓喜に背筋を震わせたのは、吸う側と吸われる側のどちらだったのか。
アビーとテオの背から翼が生えたのと、ストリボーグが完全復活したのは同時だった。果敢に躍り出た彼らをストリボーグは軽くいなす。そして顔いっぱいに新鮮な驚きを現した。
「未熟者共が、吸ったのか、ついに! 眷属が親の血を吸う、吸血鬼にとっての同族を増やす繁殖行為を!」
「お喋りが多いぞストリボーグ、友達が欲しいんじゃないのか?」
ウラディミルが煽り、身体をコウモリの群れへと変えてストリボーグを地下に向かう階段へ押し出す。翼をはためかせて加速したアビーが押し出された身体をひっつかんで地下一階、霊安室のあるフロアまで一気に投げ落とした。ストリボーグは身体を再びコウモリに変化させて上に戻ろうとするが、テオがすかさず上階に向けて2個目の硫化アリルのガス弾を炸裂させた。フラフラと力を失ったコウモリたちは霧へと変化し、そのまま元のストリボーグの身体へと戻った。おまけに上方にいたウラディミルが追い立てられ、そのままガスの無い下の階、地下2階へと向かっていく。
「くそ、こんな奴らに……! なぜ、急にこのストリボーグが追い詰められて……ッ!」
初めて愚痴じみたことを口にしたストリボーグだったが、思考を途切れさせるように立て続けに発砲音がした。回転式拳銃を構えたマークである。平素のストリボーグならならここでマークに戦いを仕掛けているが、思いがけず劣勢に追い込まれ、平静さを失った彼は銀の弾丸から逃げるように無秩序に動き回りながら奥へ向かっていく。
「誘導成功です、マーク様! 棺桶は奥の部屋、そこに追い詰めてください、そこにニコラ様が控えています!」
ダンの指示が飛び、ポポが操るドローンから発砲をして間断なくストリボーグの背に発砲する。マークがもう一度銃を構えた。最後の銃弾である。
弾雨の中をひらりひらりと飛んでいたアビーとテオは互いの顔を見合わせると、それぞれがウラディミルの手を握る。そしてマークの発砲と同時に、ウラディミルを勢いよく投げ飛ばした。ウラディミルの羽根をはためかせて加速して、弾丸から逃げようとする小柄な襤褸切れをまとった身体を掴むとそのまま一番奥の部屋へと突入した。
爆発的な力で暴れて拘束から逃れようとする最強の吸血鬼の身体に、続けざまに銀の弾丸が打ち込まれた。サイレンサーが付いているゆえに貫通力にかけ、結果として銃弾を体内に残してしまうような、そんな古めかしい銃による発砲だった。
「ぎ、ぎぃあああああああああああッ! お前か、強き者よ……!」
「棺桶はココだ!」
射手は当然、ニコラである。ストリボーグの棺桶を見つけ出し、それを封じるための用意をしてここで待ち構えていたのだ。
体内に残った銀のせいで吸血鬼は上手く力を出せないらしい。コレンシウ伯とその供回りはストリボーグを棺桶に押し込めた。なお暴れようとするその小柄な体にテオが最後の銀の矢を突き立てる。そのままマークが勢いよく棺桶の蓋を締め、すかさずニコラが大きな釘を棺桶の蓋に打ち込んだ。
だが中に入った吸血鬼はなお暴れ、罵った。
「戦え人間、強き者ども! あるいはこのストリボーグに勝ったと思うのなら殺せ! こんな中途半端なモノは戦いと呼べん!」
しかしニコラは困ったように頭を掻くばかりである。
「別におれは戦いに来たわけじゃないよ。そもそも刑事に誰かを裁く権利は無いし、殺す権利も無い。俺は、吸血鬼と一緒に生きることはできなくても、隣の社会で生きてる奴として向き合いたいから」
ストリボーグが黙った。それはどちらかと言えば、何を言っているのか分からない、という混乱の沈黙だった。考えれば考えるほど疑問がわく。
「……そもそもこのストリボーグがなぜ負けた? あの羽が生えたばかりの吸血鬼に、あの弱き者に? そもそもなぜ人間たちがああも強かったのだ?」
「お馬鹿さん、あなたって本当に世間知らずですのね」
アビーが棺桶に歩み寄り、その傍にしゃがんで囁いた。
「愛ほど果てが無く、理不尽な感情はありませんもの」
「それに比べたらお前の強さなんて些細なものだよ」
ね、とテオににっこり笑いかけられて、ウラディミルが諦めたような顔で頷いた。話を聞いていたダンもポポもまったくだ、と同意した。
そもそもさぁ、と棺桶を軽くたたいたのはマークだ。さすがに疲れたようで床に座り込んでいる。
「そもそも、ぼくらは別に強くないスよ。相棒がいるから迷わず動けるだけ」
「相、棒……」
棺桶の中から聞こえる声はくぐもって、それでもなお戸惑いを感じ取るには十分だった。
「大事な人、尊敬できる人、頼って良い相手。そういう人と一緒にいたくて、そういう人に相応しくありたいから、最強のお前をびっくりさせちゃうような勇気ある行動ができちゃうワケ」
どこかおちゃらけたように言ったマークだが、相棒を見つめるそのまなざしは真剣そのものだった。数日前に自分が言った言葉を相棒が覚えていて、それを尊重してくれたことが誇らしく彼の胸を温かくした。
棺桶は再び沈黙した。今度は思考のための沈黙だった。
「ま、しばらく考えながら寝ててくれ。そしていつか、遠い未来で良い、アンドレイ殺しの罪を償ってくれ」
ニコラがそう言うと、棺桶は今度こそ本当に静かになった。本当に眠ってしまったようで、あるいはそれは自分を打ち倒した者たちに対する敬意の表し方だったのかもしれない。この場に集っていた者たちは互いの顔を見合わせて、そしてほっとしたような笑みを浮かべた。
***
「今回の件、解決が休暇明けに間に合わないんじゃないかと思ってヒヤヒヤしましたわ」
「間に合って良かった良かった。見送りありがとね、ニコラさん、マークさん」
数日後、ニコラとマークはアーテルベン中央駅でアビーとテオを見送っていた。彼らは春の休暇を終え、これからロンドンの大学に戻るのだ。
「だから手伝わなくても良いと俺は最初から言っていたのに、まったく……」
養父が拗ねたように言うが、子供たちは聞く耳持たない。そんな彼らに、ダンとポポが熱心に日焼け止めクリームや日傘を持たせる。
「一人前になったのだから、体調には今まで以上に気を遣って。何かあったらH&Wのロンドン支社を頼るんですよ」
「できれば週に1度はメールをください。旦那様が寂しがりますから」
あどけない響きの機械音声による暴露を慌てて当人が否定しようとするが、アビーとテオは余裕たっぷりににこりと笑う。
「伯、寂しくなったらいつでも電話なさって良いのよ?」
「いくらでもお付き合いしますよ、閣下」
艶やかな微笑にウラディミルが黙り込み、その反応に刑事たちが呆れたように笑った。
駅構内の電光掲示板では、ここ1年ほど増加していた行方不明事件についてのニュースが流れている。廃病院の地下に拉致監禁人々が違法な薬品の被検体になっていたこと、彼らは全員保護されて現在は療養中であること、犯人はメディカル・メルカ、マイナン・インポート・アンド・リペアをはじめとする複数の会社の幹部であることが報道されている。被害者たちは出稼ぎ労働者や旅行者、別の町から引っ越したばかり、という人が多かった。「いなくなっても気づかれにくい」、「周囲がすぐに気づかない」という理由で誘拐されたのだ。
薬品の内容や、「吸血鬼の兵士を作ってストリボーグを陣頭に押し立てて世界を操る」などという誇大妄想じみたいっそ幼稚な彼らの目的や、吸血鬼ストリボーグの実在が明かされることはなかった。それもこれも、吸血鬼ウラディミル・コレンシウ伯爵をはじめとする紋章局と警察との折衝、そして報道規制の結果だった。
書類送検の報道をチラを見やりながらアビーが刑事たちの方を見て首をひねった。
「で……結局、ニコラさんとマークさんってまだ警察官なんですの?」
「あれ、でも紋章局じゃなかったっけ?」
ニコラとマークは、警察官でありながら組織からの「みだりに銃を発砲しない」という信頼の印として渡された記念品の銃を発砲したことを問題視された。別段、職務規定や法に背く行為ではないのだが、重役からひんしゅくを食らったのだ。しかしそこで叔父であるアンガス卿は無関係として一切の累が及ばなかったのはローゼンブラウ警察という組織の美点だったと言える。
しかし、国家上層部が最も問題視したのは彼らが吸血鬼の実在を知ってしまったことだった。また、直属ではないとはいえ上司との関係が悪化したこともある。結果、ニコラとマークは警察を抜けて、紋章局に籍を置くことになった。表向きには貴族関連の仕事を行う紋章局だが、その真の姿はローゼンブラウの吸血鬼やそれにまつわる問題を解決する公的組織であるという。秘密主義的な性格もこのためである。
現在、ニコラとマークは紋章局からの出向という形で警察庁の刑事部捜査1課で仕事をしている。さらに鑑識課のミネヴァ女史とその相棒兼後輩のメガネの女性職員においても同様の処置が行われた。
「てことは、二人ともこれから伯と関わることが増えるんですの?」
「そうなるッスね」
「じゃ、閣下のことよろしく頼みます」
もはやただの顔見知りとは言えなくなった年下の青年に「よろしく頼む」と言われ、ニコラとコレンシウ伯は互いの顔を見合わせる。そして呆れたように笑って握手した。
「まーしかしアレっすね、ニック先輩と探偵事務所を開き損ねたのは残念スね」
マークが歌うように言うと、横で相棒がおかしそうに笑った。彼らはこれからテリオンの町に行くらしかった。廃病院から保護されて諸々の検査が終わってようやく一度家に帰り、父親に再会できたハンナ嬢たちコボゥ一家を見舞い、情報提供をしてくれたあのリッキーたち4人組に会いに行くつもりだ。
ハンナ・コボゥの誘拐実行犯は、休日出勤の際によく彼女の面倒を見てくれていたというメディカル・メルカ社の事務の女性だった。元より幼い子供である、知っている顔となればなおさら何の疑いも無くついて行ったのだろう。コボゥ氏はメディカル・メルカを辞職することになったが、H&W社にヘッドハンティングされたらしい。
「しかし、ダンさん、どうやってあの工場の場所見つけたンすか?」
「それはまあ、あちこちの交通量データや電気代支払い状況や土地の工事状況や土地所有の変遷やフォークダンスクラブの会合日を覗いたり調べたり……」
「あッそれ以上は良いです、聞いたらなんかヤバそう」
アビーとテオがくすくすと笑い、それからコレンシウ伯に抱き着いた。
「それじゃ、行ってきますわ、伯。今度は夏の休暇に戻ります」
「皆さんも見送り本当にありがとうございます。それでは、また」
アナウンスが響き、ドアを閉めた列車がゆっくりと走り始める。窓から身を乗り出したアビーとテオはにっこり笑って家族と友人たちに大きく手を振った。
「伯爵閣下、皆さま! 愛してます!」
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