きぎすおに

雉は日本ではめでたいこと、良いことの象徴とされるので、実は妖怪や怪異に関する民話がほぼ皆無という、珍しい動物です。
日本に生息する動物は、ほぼ例外なく妖怪や怪異が存在するので（笑）
唯一あるのは、東北では雉の夢を見ると、ケガをするという言い伝えがあるくらいでしょうか。

その雉を題材の怪談ということで、本作は非常に斬新な目の付け処だと言えます。
そんな雉を、遠部氏が如何なる怪談に仕上げたか…
是非、御一読をお薦めします。

遠部様が送る春のホラー作品です。

雉鬼と呼ばれる恐ろしい鬼がいるという話からスタートするのですが、何とも人間臭い鬼がいるものですね……

そして衝撃のラスト、一筋縄ではいかないこの物語の深さを感じさせる一作です。

春の季語「雉（きじ）」をテーマにしたホラー恋愛作品。

春うららかな恋の季節も、遠部さんにかかればホラー日和

歌会のような雅な冒頭から怪談へ
正体不明の妖の気味悪さに惹かれて読み進めると、人の心の隙間に妖が入り込み、寝取り寝取られの妖艶な展開へ向かっていく

あざむかれることを望む者。あざむく者
興味を持たせて引っ張ったあと、最後は予想外の方向へすとんと落ちる

正体を隠しているのは、誰か

喰らうとは・・・そして日本語は多くの隠語や含み言葉があります。

様々の形容と形用、そして象徴
蛇、人魚、林檎、兎、亀、羊、山羊、馬、そして「鬼」

此度の鬼とは、どういった「象徴」があるだろうか
そこを感じることも、この作品の楽しみ方でもあります(●´ω｀●)

子孫を残すため人間の女性を求める、雉鬼あり。しかし交わることができず、食うことしかできぬ。
雉鬼と一緒になりたいと思う、姫君あり。出会えば食われてしまうが、雉鬼の孤独を思えば食われることは望むところ。
出会えば終わりの鬼と姫。その双方を結びつける、本物の鬼あり。

古今東西どんなお話にも美しすぎるものは男でも女でも人ならざるものが多いですよね！

ですが、こちらに描かれている恐ろしさは美しさを超えるもの。

まさかのオチで恐怖に震えてみてください！！

怖いもの系が苦手な人にもおすすめします♪

　圧倒的な幻想美に満ちた世界で、読む人を魅了すること間違いないです。

　雉鬼（きぎすおに）と呼ばれるモノノ怪がいるという噂が囁かれる。「けーん」と三回鳴く声がしたら、その雉鬼がいるという。

　ある高貴な身分の姫君が住まう屋敷の前で、旅人が一人の男と話す声が聞こえてくる。男は雉鬼であり、「ある目的」があって美しい姫を探しているという。

　雉鬼には雉鬼なりの、「生まれ持っての業」と、「やむにやまれぬ事情」というものがある。モノノ怪としての「美しき『カタチ』」が見え、「悲しき『コトワリ』」がわかってきたところで、彼が闇雲に人をさらうような邪悪な存在ではなく、宿命を背負った存在なのだと見えてき…続きを読む

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（282文字）