圧倒的な幻想美に満ちた世界で、読む人を魅了すること間違いないです。
雉鬼(きぎすおに)と呼ばれるモノノ怪がいるという噂が囁かれる。「けーん」と三回鳴く声がしたら、その雉鬼がいるという。
ある高貴な身分の姫君が住まう屋敷の前で、旅人が一人の男と話す声が聞こえてくる。男は雉鬼であり、「ある目的」があって美しい姫を探しているという。
雉鬼には雉鬼なりの、「生まれ持っての業」と、「やむにやまれぬ事情」というものがある。モノノ怪としての「美しき『カタチ』」が見え、「悲しき『コトワリ』」がわかってきたところで、彼が闇雲に人をさらうような邪悪な存在ではなく、宿命を背負った存在なのだと見えてきます。
だが、話はそう悲しいだけでは終わりません。
後に、姫や侍女のやり取りを見て、とある『マコト』が見えてくることに。
白木蓮の君と呼ばれる美しきモノノ怪の「カタチ」と「マコト」と「コトワリ」が揃った時、読者は何を思うか。
それもまた耽美であり、生き物ならではの業と取ることもできる。人間の倫理観の中だけでは捉えきれない「一つのヴィジョン」が見えてきます。
美も醜も、清きも穢れも全て内包し、丹念に塗り上げられた一枚絵のように、圧倒的な存在感と奥深さを持つ、とても幻想的で耽美な物語でした。