妖精部隊

水城みつは

第1話 チェンジリング

「妖精が見えるようになる薬があるらしいぞ」


妖精の粉フェアリーダスト? 怪しい薬物ドラッグは勘弁して欲しいな」


 そんなファンタジーじみた話あるわけがない……と言いたいところだったが、この世界は数年前からファンタジーに片足を突っ込んでいる。

 魔素エーテルと名付けられた謎物質が発見され、異能スキルと呼ばれる超常現象を起こす能力を発現する人々が現れた。


「ついでに言えば、その妖精の粉フェアリーダストを使用すると異能スキルが発現することがあるらしい」


「え、マジ?」


 少し心が揺れる。異能スキルの発現は魔素エーテルとの相性、魔素エーテル適合率が関係している。

 そして、俺の魔素エーテル適合率は驚異のゼロパーセント。


「ただ、半分ぐらいは死ぬって話だ」


「クソかよ!」


 そして、今現在、俺がこんな路地裏で死にそうになっているのは、そんなあやふやな情報が気になったからではない……筈だ。


―― 『グギャギャァッ……』


 魔素エーテル異能スキルと共に明らかになったファンタジー現象、異界化と異形。

 異界化は迷宮ダンジョン化と言ったほうがわかりやすいかもしれない。

 そして、異形とは異界に存在する不可思議な、生物と言って良いかもわからないモノだ。

 困ったことに異形は攻撃的であり、他の生物を見つけると襲ってくる存在であり、俺は異形に追われている最中である。


 ズルリと足を引きずるような、それでいて素早い動きで異形が接近し、無造作に腕を振るう。


「ぐぅっっ……」


 ガードした腕をものともせず振り抜かれた力により俺の体は宙を舞った。

 狭い路地から人気のない大通りへと転がり出る。

 普段は人通りの多いところだが、異界化は通常の空間とは切り離されているとされ、確かに誰もいない……?


 地面に倒れ込んだため紫色をした空が見えた。

 そして、俺を見下ろす黒髪の天使、いや、美少女が一人。


「君、一般人だよね? どうして此処に……あ、生きてる? 意識はある?」


「……あ、逃げて」


 俺を追って異形が来てしまう。


「えーと、私は妖精フェアリー部隊所属、鴻鳥こうのとりりん。死にかけの君に提案がある」


 少女は腰のポーチから光る筒を取り出した。


「……トリの降臨?」


「『こうのとり、りん』だ。意識混濁が見られる緊急事態と判断して妖精の涙フェアリーティアーの投与を行う――」


 手に持った光る筒が腕に押し当てられ、激しい痛みと共に意識が遠くなるのを感じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖精部隊 水城みつは @mituha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ