カグラちゃん登場
「あー! いた! ちょっと長豆屋先生ってば!」
先生に気づくと、少女がズンズンとせまってきた。まるで馬のしっぽのようなかみの毛がゆれている。
鬼のような形相が迫ってきたのに、すずおくんはキョーミしんしんなまなざを向けた。
「カグラちゃん……」
「なんだって? この子がすずおくんのお姉さん?」
「なに? 文句あるの?」
ギロリ。今にもなぐりかかってきそうな剣まくでにらまれて、背筋が冷たくなった。
文句なんてない。すずおくんにお姉さんがいたってぼくになんの問題はない。
「どうして怒っているんじゃ? 学校でイヤなことでもあったのか?」
先生がたずねると、すずおくんのお姉さんはお腹にたまっていたイライラをぶちまけるようにはなしだした。
「すずおくんが学校に遊びにきてからあたしまで注目されるようになったんだけど! クラスメイトの男子にヘンなヤツのお姉さんだって、からかわれるんだから!」
先週からすずおくんは小学校へ行き、同じ学年の児童たちと交流している。
国語や算数の勉強はムリだけど、図画工作や音楽などの授業なら参加できる。
だけど授業中なのに教室のすみでくつろいだり、大声で歌いながら絵をかいたり、みんなをギョッとさせる行動を起こしているらしい。
もちろん、みんなを驚かせようとしているわけではない。
だけど、授業中なのにおとなしくできないすずくんがヘンな目で見られてしまうのは仕方がない。
当たり前のことができないすずおくんを「ヘンな子だな」って思うのは当然だ。
でも、それがすずおくんだ。
どうしてこの子は家族なのに、想像できないのだろう?
「カグラちゅわ〜ん」
「こら、すずおくん! お店の中で揺れないで! ほんと常識知らずなんだから」
少女は、ゴキゲンになってユラユラゆれ始めたすずおくんの肩をおさえる。
しっかり者のお姉さんだ。
「先生! 大人なんだからちゃんとすずおくんに注意してよ! だいたい、なんでジヘーショウなのに学校に行かせるの? 学校っていうのはね、フツーの人が勉強するところなんだよ。すずおくんは来ちゃダメじゃん」
「すずおくんを仲間はずれにするんじゃない。悲しむぞ」
「カナシムゾ」
すずおくんがナイスタイミングで先生のセリフをマネした。
女の子はすずおくんを無視して先生に怒りをぶつける。
「あたしは反対! だってすずおくんは怒ると凶暴になるんだよ! ゴリラだよ!」
「ゴリラダヨ!」
「すずおくん。それは元気よく繰り返さなくていいんだよ」
これ以上怒らせないで。
ぼくはたえられず、口をはさんだ。
しかしすずおくんは空気が読めない。
「ゴリラは、むねを、ポコポコたたくよ。なかよくしようよ、ポコポコポコ」
のんきにお気に入りのゴリラの絵本の文章を暗唱している。
言葉が通じないって強いな……。
たしかにすずおくんは不機嫌になるとガムシャラになって物を投げる。
その様子はまるで「ゴリラ」だ。「怒ると手に負えないから学校に来るな」って言われているのに、すずおくんは平気だ。
「勉強だってできないじゃん。行く意味なんてないよ」
「意味はあるぞ。すずおくんはいろんな人と関わることで社会性を学び、クラスメイトはすずおくんを知ることができる」
「ヘンな子だってバカにされるだけだよ。それに、同じクラスのみんなが集中して勉強できないし」
「迷惑をかけるだけでないぞ。なんと学校の花に水やっているんじゃぞ」
「だからなに? 花の水やりなんて誰でもできるし」
うーむ、キビシいなー。
でも花の水やりって、メンドウくさいから誰もやりたがらないよね。すすんでやってくれる人はありがたいと思うけどな。
「カグラちゃーん! しゅくだいしなさーい!」
とつぜんすずおくんがよくとおる大声をだした。
先生と少女は固まり、店の前を歩いていた人はビックリして、こっちを見ている。
『宿題しなさい』?
家でゲームをしているときに、お母さんが言いそうなセリフだ。店のなかで言うのは場違いだ。
「カグラちゃん。カグラちゃん。しゅくだいしなさい」
「は、はあ? あんたに言われたくないし」
「カグラちゃんしゅくだい」
「うるさい。あとでちゃんとやるから」
「しゅくだいしなさーい」
「意味わかんない! なんだよ、もー!」
ついに少女は逃げ出した。姿が見えなくなると、すずおくんはおとなしくなった。
「しゅくだいしなさい」……「家に帰って宿題しなさい」……「家に帰れ」……「どっかいけ」。
もしかして追い返していたのかな?
とにかく、うるさい子が去って一安心だ。
「ドーはドーナツドー、レーはレモンのレー」
体を左右に揺らしながら、すずおくんは歩き出した。
その手には赤の絵の具がにぎっている。
万引きでもするつもりか!
ぼくはあわててすずおくんを引き止めた。
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❦クエスチョン 〜神様の考えた優しいクイズ~ 永若オソカ @na0ga50waca
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