すずおくんはまひろちゃんが好き

「まひろちゃん……」

「そうじゃのー。まひろちゃんに会えるぞ」


 書道教室に通い続けている子の名前は近江このえまひろさん。

 ぼくが帰り支度をはじめる頃にその子が塾に来るから、顔見知りの間柄だ。


「まひろちゃん……」


 筆を見つめていたすずおくんがポツリとつぶやいた。

 すずおくんが人の名前を呼ぶなんて珍しい。しかも書道教室の子が「まひろちゃん」であると覚えている。


「そうだよ。まひろちゃんは、すずおくんにも声をかけてくれるね。やさしいね」

「すき」


 即答。オウム返しかスルーのどちらかだと思っていので、これにはビックリ。

 ぼくは質問をしてみる。調子がいいから、会話ができるのかもしれない。


「へ、へえ……お友達になりたい?」

「カグラちゃん」


 ……カグラちゃん? 

 どちらさま?


「だれ?」

「…………」

「鮎川カグラちゃんはすずおくんのお姉ちゃんじゃよ」


 だまりこんだすずおくんのかわりに、先生が教えてくれた。


「まひろちゃん。ともだち」


 さらにすずおくんが言った。

 すかさず先生が説明する。


「まひろちゃんはカグラちゃんの友だちなんじゃよ」

「そういうことか。つまり、まひろちゃんは、カグラちゃんの友だちであって、すずおくんの友だちではないんだね」

「ナインダネ」


 すずおくんはハッキリと答えた。

 いつものオウム返しなのか、意志のある返事なのか、わからない。


「そうなんだ。まひろちゃんに会えるの楽しみだね」

「……」


 今度は返事をしてくれない。赤の絵の具を両手にそれぞれ一つずつ取って、凝視している。


「すずおくん。今日は絵の具を買わないぞ……お、いいものを選んだな」

「先生どういうこと?」

「クイズのついた半額シールの商品は、お金を払う時に正解を言い当てたら半分の値段ですむシステムじゃ」

「へえ、どれどれ……」


 すずおくんの手元をのぞきこんだ。

 『茶色をつくるには、赤色とあと一色何が必要でしょう』


「あと一色? 赤と黄と青の三色で茶色になるけど、ほかの組み合わせもあるんだね」

「なんだ。その三色を知っているのなら、答えられるぞ」


 え、そうなの?

 でも一色しか足せないんだよ? 

 黄と青の代わりになる色味なんて……あ。

 赤と緑(黄+青)で茶色になる。

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