昼休みに図書室へ行ったぼくは、ホワイトボードにはられた学校新聞のクイズに目が止まった。
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だれにあげるの? おくりもの(馬バージョン)
『ヒロくんがみんなにお土産を買ってきたよ! だれにどれをわたすのか、考えてみて♪』
〜おみやげ〜
Aしのびごま
ワラであんだ馬。えん結びのえんぎもの。
B馬の蹄鉄(ていてつ)をあしらったペンダント
馬の蹄鉄はまよけの意味があるラッキーアイテム。
C馬の置物
風水では「馬」は「成功」「行動力」の意味がある。名声や人気運をつかさどる南にかざると運気アップ。
D左馬(ひだりうま)のキーホルダー
しょうぎの駒に左右反転の馬が書いてある。
「うま」をさかさまに読むと「まう(舞う)」になり、お店がにぎわうえんぎものとして有名。
〜あげる人〜
1兄のキンタ
高校生で、クラスの女子にモテるために努力している。
2しんせきのおっちゃん
定食屋を営んでいる。トンカツ定食が人気。
3友達のサキ
おみくじで大凶をひいてショック。今年は要注意な一年なのかもしれない。
4弟のアキラ
四月から小学一年生になる。友達ができるか不安。
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ぼくはクイズの文章を何度も読み直していた。
このおみやげの説明なんだけど……作り話なのか本当に効果があるのかとても気になる。
もちろん、このクイズのためだけに考えた設定なのかもしれない。
でもさ、もし馬の置物を南に配置しただけで人気者になれるのなら……とてもすごいじゃないか。
本当だったらためしてみたい。ぼくだってモテたいから。
だったらあれこれ考えるのではなく、実行してみればいい。
……でも、だまされるのはイヤだよ。
風水の本を読めばすぐに答え合わせができる。さあ、どの本棚に風水の本があるだろう?
? ? ?
「早乙女? なにか気になるおみやげでもあるのか」
「え?」
名前を呼ばれたぼくは、ようやくそばにクラスメイトのシホくんがいることに気づいた。
どんな漢字なのか忘れたけど「シホ」はみょう字だ。
かわいらしい名前とはうらはらに、シホくんはぼくより背が高くてすずしげな印象がある。
今日はいつもより背が高い。なぜならナスのかぶり物をつけているからだ。
……本当だよ。
シホくんはオシャレなんだけどセンスがイマイチだ。
かならず頭に何かをつけていて、大きなリボンをつけたり、ヒゲつきのぐるぐるメガネをかけたりしている。
? ? ?
「うん、そうなんだけど……。ねえ、どうしてぼくはクイズをながめているだけで、おみやげが一番気になっているとわかったの?」
「だって早乙女はクイズがきらいだろう。だから、きょうみを持つとしたらおみやげしかない」
「なるほど。すばらしい着眼点だ」
足立小学校はクイズに目がない児童が多い。
だから学校新聞のクイズコーナーは人気がある。
さっき、ぼくより年下の女の子たちが一分もかけずに正解を見つけていて、とてもビビったね。天才は意外と近くにいるものだ。
? ? ?
「風のウワサで聞いたけど、このクイズってシホくんが考えたって本当?」
「お手伝いをしただけ」
話を聞くと、クイズを考えた子は別にいて、その子は馬が好きだという。
せっかくだから、クイズに取り上げるおみやげを馬しばりにしてみようとひらめいたものの、どんなおみやげにしようか、ちっとも思い浮かばなかったらしい。
「それで、おみやげの内容はシホくんが考えてあげたのか。よく、こんなに思いついたね」
「いや、おれも思いつけなかった」
「え?」
「だから、いろんな本を読んで探した」
自分の頭で考えず、本の知識を引用した。
だから、たいしたことなんてない。
そう言いたげな苦笑いだった。
それはそれですごいよ。ぼくなんて、どの本にヒントがあるのかさえ見当もつかないから。
? ? ?
「じゃあ馬のグッズを南に置けば人気者になれるってこと?」
「いちおう、風水の本にはそう書いてあった。早乙女。モテたいなら試してみなよ。何もしないで夢がかなうと思うな」
「わ、わかっているよ。ただ、それでうまくいかなかったら、はずかしいと思っただけだよ」
これまでぼくは、女子と仲良くしようとがんばって、失敗におわった。
ピンクのカップケーキにチャレンジして黒コゲにしたり、オシャレしようとまえがみをリーゼントにしたら「キツツキ」と呼ばれたり……。
そういえば、シホくんはいつもクラスの女子としゃべっている。しかも見かけるたびに女子がちがう。
モテるためにどんな努力をしているのだろう。
「なにもしてないよ? そもそもモテたいなんて思ったことはない」
「…………」
「早乙女? なぜ血のなみだをながしそうな顔でにらんでいる?」
「気にしないで。ちょっとだけ、くやしいだけだから」
「本当に〝ちょっとだけ〟か?」
なにも努力しないで多くの女子と仲良くできる。なんとうらやましいことか。
そういえば、今日は頭のナスを「かわいい」とほめられていたっけ。
ナスって女子に人気なの?
ぼくもそのナスをつけたら女子に話しかけられるのかな?
? ? ?
「そうそう。クイズにもどるけど、この左馬ってこれで合っているの?」
うらみごとの代わりに、ぼくは気になっていたことをたずねた。
馬という漢字は、左向きの馬を文字にあらわしている。
左右逆転した馬は右を向いているのに、どうして右馬じゃないのだろう?
もし理由があるなら知りたい。
「馬に乗る時、右からだと転びやすい。左から乗ると、転ばずに出だしがいい。また、馬に近づくなら左側に立った方がいい」
「そうなの?」
「乗馬の本に書いていた」
シホくんは、本の知識を思い出しながら話しはじめた。
昔の時代は、人間の生活に馬がいて、馬の世話をしていた。
だから、馬は左の方がいいと体験でわかっていたのだろう。
「だったらどうして、わざわざ右を向かせたのだろう?」
「左馬には、さかさまにすることで、人にたづなを引かれる馬が、人を招く馬にかわるという意味もある」
「へえ」
「反転すると良い意味になる。だから左馬は、右を向いた馬ではなく〝左〟右反転したえんぎのいい馬だと思う」
シホくんは物知りで、集めた知識でいろんなことを考えるほど頭がいい。
考え方が広がるから、話していて楽しい。
だから、モテるのかもしれない。
? ? ?
「し、しのびごまあぁ!」
マホウのしゅもんをとなえながら、低学年の女の子がぼくらの前に飛び出してきた。
とつぜんの登場だったので、ぼくの心ぞうはバクバク高なっている。
横を見ると、シホくんはポカンと口を開けている。
女の子はドキドキしながらシホくんを見つめている。これから告白が始まりそうだ。
ぼくはどこかに行った方がいいだろうと思ったのに、女の子は告白とほど遠い発言をした。
「あ、あの! たまたま会話が聞こえてしまったんだけど! クイズのシノビゴマって本当にあるの⁉︎」
クイズ……ああ、この子もおみやげが気になっていたのか。
ぼくが納得していると、女の子の友達が加わった。
「ちょっとカヨ! いきなり目の前にあらわれたらビックリされるよ! ごめんなさい。この子、クイズにでてきたシノビゴマがどんな形なのか知りたがっていて……。あ、わたしは親友のエミカです」
エミカちゃんは、えしゃくをした。
ちなみにこの二人は、新聞のクイズをすぐに解いてみせた天才少女達だ。
「わかった。本を持ってくるから待っていて」
「やった!」
「ありがとうございます。ほらカヨもお礼!」
エミカちゃんが友達の頭をつかみおじぎをさせる。なんだか親子みたいだ。
? ? ?
シホくんが持ってきた本は、日本のお守りを写真付きで紹介した本だ。
さっそくワラであんだ馬のえんぎものを見て、カヨちゃんはガッガリしていた。
「ええー! キュートじゃない! ニンジャのコスプレをしたお馬さんだと思ったのに」
「でもえん結びのチカラがあるのよ。すばらしいわ」
カヨちゃんは「うーん」とうなっている。
頭の中で思いうかべたイメージとのちがいに、しょうげきを受けている。
他のページをめくっていると、たからものを見つけたように目をかがやかせた。
「ねえエミカちゃん! このお守りはかわいいよ」
「でもそれ、ぶじに赤ちゃんがうまれますようにって意味のお守りよ。わたしたちは小学生だから、まだ必要ないわ」
「うう……こんなに愛らしいなのに!」
カヨちゃんは、なごりおしそうに本を閉じた。
見た目がこのみでも、そなわったパワーが自分にふさわしくないとお守りの意味がない。
えんぎものをとくるときは、気をつけなければならない。
ぼくなんて、友達へあげたお守りに「ハゲませんように」といういのりがこめられていたなんて知らなかったせいで、とてもおこられてしまった。
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「あれがシノビゴマ……かわいさが足りない!」
「カヨったら、ショックを受けすぎじゃない?」
「気晴らしにクイズでもする?」
足立小学校はクイズの好きな児童が多い。
シホくんのていあんに、カヨちゃんは元気になった。
「レストランではたらいている女の人に一目ぼれをした男の人が、花をプレゼントしました。しかし女の人は花を部屋にかざりませんでした。いったいナゼ?」
まっさきに答えたのはカヨちゃんちゃんだ。
「虫がついていた!」
「虫は関係ない。花に注目して考えてみてほしい」
しかしカヨちゃんはうでを組んで考えこんでしまった。
ちんもくにたえられず、親友のエミカちゃんが答えをしぼるための質問をする。
「花言葉は関係ありますか?」
「いいえ。関係ない」
「そうですか。男がプレゼントした花が怖い花言葉の花だと思ったのに」
そういえば、四葉のクローバーって見つけたらラッキーなのに、花言葉が「復讐(ふくしゅう)」なんだよね。
花をおくる時は、花言葉も考えないといけないのか……。
花を色や形だけでえらぶ男はモテないのかもしれない。覚えておこう。
エミカちゃんの横でカヨちゃんが「そんな理由で花をかざらないの?」という顔をしている。気にしないタイプのようだ。
エミカちゃんが質問をする。
「じゃあ、花の本数は関係ありますか?」
「それも関係ない。もしかして、花言葉のように、花束にもルールがあるの?」
「はい。本数にそれぞれメッセージがあって、15本と16本と17本はさけた方がいいです」
「え! そうなの!?」
カヨちゃんは気の毒そうに顔をしかめた。
そんなことまで考えないといけないなんて、つかれてしまうよ!
そう顔に書いてある。
少なくとも、この子はウラにかくされた意味にキョーミはなさそうだ。
「プレゼントなんだから、相手に気持ちをこめてこそよ」
エミカちゃんのどうどうとした発言に、カヨちゃんは「そういうものなのか」としみじみうなずいていた。
「ザンネンながら、男の人がおくった花は、女の人への思いやりが足りなかったのか……」
「いいえ。そもそも女の人は怒ってもいなければ花を捨ててもいない」
「え⁉︎」「え!」
カヨちゃんとエミカちゃんのおどろく声がそろった。
花を部屋にかざらなかったからといって、捨てたわけじゃない。
では花はどこへいった?
「問題文のレストランは関係ありますか?」
「よいところに気づいた。関係あるよ」
「もしかして! 花は料理にでてくるんじゃない⁉︎」
「ピンポン。男は食べられる花をプレゼントした」
オシャレなパンケーキには花がデコレーションされている。
ハワイアンなジュースに大きな花がかざられている。
はじめからおくりものは食べものだったから、花びんにいれる発想はなかったんだ。
? ? ?
「って、カヨ! 次は体育の時間だからそろそろ教室にもどろう」
そろそろ昼休みが終わる。エミカちゃんはあわてて、カヨちゃんのかたをたたいた。
「本を持ってきてくれて、ありがとうございました」
「クイズ、たのしかったよ!」
エミカちゃんは頭を深くさげ、カヨちゃんは大きく手をふりながら、図書室をでていった。
元気な子とマジメな子。正反対の二人だったな……。
それにしても、学年のちがう女の子にも話しかけられるなんて、シホくんはモテモテだなあ! うらやましいよ!
「早乙女。なんだその目は。まるでおれを悪者のように、にらんでいるのはなぜだ」
「気にしないで。ちょっとだけ、くやしいだけだから」
「本当に気にしなくていいのだな? 〝ちょっとだけ〟ではなさそうだが、スルーするぞ」
そしてシホくんは、風水の本だけでなく、クラスで人気者になるための本を持ってきてくれた。
なに! 人気者になれる本があったのか!
よ、よーし! これでぼくも女子にチヤホヤされるぞ!
※このストーリーは、次の話のナゾを読者が自力でとけるようにヒントを散りばめた「ふくせんばなし」となっています。
次の話は月末に出します!