〝生首〟公園に興味を持った辻宮くんに頼まれて、あたしは道案内をしている。
辻宮くんは都市伝説や怖いウワサが大好きなクラスメイトだ。
しかも話を聞いて満足するのではなく、本当なのか調べるという徹底ぶり。
「ありがとう、サトウさん。中学校になると、みんなが部活や塾で忙しいから、知らない町を一人で歩くのは不安だったんだ」
ウワサを教えてくれた友達に地図をかいてもらったみたいだけど、グチャグチャな線が重なってとても読みにくい。
あたしでさえチンプンカンプンなのだから、辻宮くんはますます困っていただろう。
「サトウさんの町に来たのはこれで二度目だ。まだ覚えていないから、案内してくれて助かった」
「一度目は、ウワサだらけの交差点の調査をしていたよね」
その交差点は、ホラー好きな小学生たちが、さまざまな怖い話を作っては広めていた。
これから向かう生首公園も子どもの作り話が広まっただけだ。
本当の名前は三波公園なんだけどね。
どうして生首公園なのかというと……。
「手足が空から降ってくる。さいごには首が落ちてきて、目が合ったら追いかけてくる」
「生首に追いかけられた子はいる?」
「知らない。でも作り話だから、そもそも生首なんてないとあたしは思う」
予想通りの返答に、辻宮くんは「そりゃそうか」と受け入れている。
辻宮くんは、ウワサをどう思っているのだろう。
「作り話だと切り捨てられたら、多くの子に知られないよね。生首のインパクトと、話に説得力を感じて、受け入れた子がたくさんいたと思うんだけど」
公園の入り口に毛糸で編んだ手ぶくろが落ちていた。
子どもサイズのそれは、雨を吸ってビチャビチャだった。
もう五月だ。
寒い時期でもないのに、なぜ落ちているのか、辻宮くんは不思議そうに見おろしている。
「三波公園では珍しいことではないよ。他にもくつ下やくつも、なぜか落ちているんだよ」
しかも、いつの間にかそこにある。
さっきまでなかったくつ下がベンチに置いてあったり、公園を出ようとしたら道路にくつが転がっていた。
だれが置いたかわからないし、だれのものなのかさえわからない。
見えないけど、確実に何かがいて物を残す。
「これって、怪奇現象だったんだ」
「地味だけどね」
霊感のある辻宮くんは公園にはいる。
すべり台、砂場、赤いウシの揺れる遊具。
これだけしか遊具はない。
辻宮くんがウシの遊具に近づく。
「この遊具、スプリング遊具っていうんだっけ。スプリングって春だから、春の遊具なのかな?」
「辻宮くん、また授業中に寝ていたでしょう。英語の時に、スプリングは他にも泉やバネって意味もあるんだよ。この遊具にはバネがついているから、春は関係ないよ」
辻宮くんは、よく授業中に居眠りをして先生に注意されている。
ホラー好きの辻宮くんのことだから、夜に心霊スポットへ行っているのだろうな。
ホラーに関係すること以外は無気力とはいえ、中学生なんだから勉強やテストくらいはしっかりした方がいいのにね。
辻宮くんは赤いウシをなでる。
「この子、あんまりかわいげのない顔をしているね。名前とかあるの?」
「つけちゃダメだと言われているから、名前はないよ」
「…………へえ」
え? なんだろう。
なんだかあたしが重要なセリフを言ったような反応だ。
「わざわざ『名前をつけてはいけない』とルールを決めるのは、なんらかの理由があるのだろうね」
「ああ。そういう考え方もあるのか。あたしはそういう決まりだと聞き流していたよ」
「それに〝顔の向き〟もキミョーだ。どうして柵に顔を向けているというか……どこを見ているんだろうね」
赤ウシの背中をなでていた辻宮くんは、ふいに顔を上げた。
真上。
夕暮れの空にはなにもない。
雨雲が流れていなければ鳥も飛んでいない。
でも、ジッと一点を凝視している。
「何かいるの?」
「……手ぶくろやくつ下の落とし物から、ウワサがつくられたのか」
辻宮くんは何事もなかったようにウシから離れた。
見えなかったの? あえて何も言わないの?
うわあ、どっちなの⁉︎
◉
「この町って神社や祠ってある?」
「え? いや、神社はないよ。たぶん祠もないと思うよ?」
町のすみずみまで歩き回ったりしないからハッキリ答えられないけど……このあたりは数年前に山をけずってつくられた新しい町だ。
平和をいのるための神社をたてたり、悪霊をしずめるためのほこらを立てたりするのは昔の時代の話でしょ?
公園の調査なのに、なんでそんな質問をしたのだろう?
「今日のところはここまでかな」
太陽はかたむき、向こうの家の屋根に半分かくれている。
春になったとはいえ、日没はまだ早い。
のんびりしていたら夜になってしまう。
「あたしも、たずねていいかな? どうしてさっき空を見上げたの?」
「ああ、たしかに気になるよね。実は──」
「? 辻宮くん?」
止まった。
まるで停止ボタンを押されたかのように、ピタリと固まった。
でもジワジワと下を向き、なんとも言えない表情になっていく。
「──頭上から声が聞こえた〝ような〟気がしたんだ。実際は何も聞いていないけど」
「え?」
「そんな気がしただけ。……ね、ヘンでしょう」
「あたしには聞こえなかったよ。なんて言っていたの?」
「くだらないことだから。気にしなくていいよ」
辻宮くんはそっけなく答えた。
少なくとも見上げた先にはなにもなかったんだよね。
だから「声が聞こえたような気がした」と言ったのだと、あたしは思うんだけど。
辻宮くんの反応は、見えなかっただけで、本当は何かがひそんでいそうだ。
ナゾが隠されているのかな?
生首公園について、ぜひ調べてほしいよ!
◉
しかし、辻宮くんに任せっきりというのもどうなんだろう。
次の日学校が終わったあと、あたしは町の公園を見てまわっていた。
三波公園以外の三つの公園を見て回るのだ。
来田公園と西三波公園の確認がおわり、ラストは遊馬(あすま)公園に行った。
「……やっぱり」
背中にコブを二つくっつけた恐竜のような動物が砂場でおすわりしている。
公園でたまに見かける「動物園の形をした置物」はどうやって遊べばよく分からなかったけれど、ようやくイミに気づけたよ。
辻宮くんが三波公園の赤ウシに対して「どこを見ているの?」と言っていた。
その時はピンとこなかったけど、後になってハッとした。
来田公園と西三波公園、そして遊馬公園。
どの公園も動物の遊具が置かれていた。
しかも、よくわからない方向を向いている!
これはぐうぜんだとは思えないよ。
もしかして、視線が交わるところにナニカがある……?
「お? おじょうちゃんか? セーラー服を着ているってことは、もう中学生かい」
「あ、ニレジイ。こんにちは」
そうじ道具一式をもって、ニレジイがやってきた。
この人は町の公園を清掃するおじいさんで、公園で遊ぶ子どもたちには顔なじみの有名な人だ。
「遊馬公園に初めて来たんだけど、こんな場所だったんだね。こじんまりとしている」
子どもがワクワクするようなすべり台もブランコもない。
鬼ごっこやドッチボールをするにはせますぎる。
ここでなにして遊ぶの?
「そうだろう。たまに告白する男女を見かけるが、基本的に無人だから」
「え? 告白? こんなさびしいところで?」
「おうよ。そうじをしようと公園に来たら、愛の告白している。一度や二度じゃない。よく見かける」
「ここ告白スポットなんだ……って、アレ? でも……」
でも、公園の入り口に『ここで告白しないでください』って張り紙があったよ!
もしかして、だれかが公園の近くを歩いている時に、フラれているところを見たくないから、告白は別の場所にしてね……なんて、まさかね。
そんなあたしの心情なんて知らないで、ニレジイはいつものようにそうじを始めた。
まずは恐竜から。背中のくぼみのもていねいにぞうきんでぬぐう。
ニレジイの姿を思い浮かべる時、なぜか公園の動物を磨くところが頭の中にでてくる。
そうだ、ほかの遊具より動物たちをしっかりふいている。
「公園にいる動物たちって、守り神だったりする?」
あたしの問いに、ニレジイは〝けろりとした〟声でこう返した。
「そうだね。子どもたちを守っているんだよ」
うーん。これはどっちだ?
あたしに話を合わせてくれているのか、本当に守り神なのかわからない。
決められずにいると、おじいさんは〝言い聞かせるように〟続けた。
「だからみんな、仲良くしないといけないよ」
おおー。すばらしいしめくくり方だ。
むしろソレを言うために守り神がいるという設定を考えたようにも思えてくる。
「ナニから守ってくれているの? 動物たちはナニを見張っているの?」
「おじょうちゃん。人にイジワルしないで心おだやかに過ごしていれば、あとは知らないままでもかまわんよ」
これ以上、公園の動物についてたずねても、くわしく教えてくれそうにない。
引き下がるしかない。
できれば、もっと辻宮くんに教えてあげたかったけど。
「もしかして、おじょうちゃんはここで、カレシでも待っておるのかのう?」
「へ? い、いや! カレシなんて……」
否定するべく首を振っていると、ナイスアイデアが頭に浮かんだ。
「これからというか……。じつは同じクラスの男子から、話があるからこの公園で待っているように言われたんだ」
これは口からデマカセだ。
せっかくだから告白禁止についてさぐりをいれてみよう。
「ほお。おじょうちゃんは、その男子をどう思っているのかのう?」
ええ! そこまで考えてないよ!
「待って、考える時間ちょうだい…………。イケメンで、数学が得意でお菓子作りができてチョーカッコいいよ」
「そうかい。ビバ・青春じゃのう」
てみじかにベンチをぬぐうと、ニレジイは公園を出て行った。
告白がはじまるから、気をつかってくれたんだ。
ところで……告白は止めないの?
◉
「あれ? サトウさん? もしかしてサトウさんも公園を調べていたの?」
ニレジイがいなくなったあと、今度は辻宮くんが公園に来た。
さっそく公園のナゾを調べているらしい。
「なるほど、ここが告白すれば恋が叶うとウワサの公園か」
「そうなの?」
恋が叶うのに告白禁止?
「あくまでウワサだよ。それに、信じているのは〝女子だけ〟。ところでサトウさん、ヒマだったらデートしようぜ」
「デートですと!」
どうした辻宮くん。
ジョーダンでもそんなことを言うキャラじゃないでしょう。
まあ、ヒマだからついていくけど。
「ちなみに男子は、告白すると不幸になる公園だと教えてくれた」
耳元でささやかれて、ドキリとした。
まるでほかの人には聞こえないように小さな声でしゃべるので、あたしは背後──とくに出てきたばかりの公園のほうを振り向けなくなった。
「恋が叶って不幸になる? なんだかおかしいよ?」
あたしもつられて小声で言う。
辻宮くんは「その通り」とうなずいた。
「そう、おかしい。まるで何かがウラで手を引いているようなパワーを感じる」
「何か……守り神とかかな?」
あたしは、何かの存在を確信づけるために、先ほどのニレジイのやりとりを報告した。
「それにあたしは、あることに気づいちまったよ」
動物のある公園には共通点がある。
遊馬(東)、西三波(西)、三波(南)、来田(北)。
東西南北。
辻宮くんは四神って知っているかな?
東西南北のそれぞれの方角には、守り神がいると考えられていた。
それにならって、公園に守り神を置いるのかもしれない。
「きっと四体の守り神があたしたちを悪いモノから守っているんだよ」
「もうそこまでたどり着いているとは。さすが怪談はかせ。お見事」
「エヘヘ」
これまで気にしないでいたけど、公園の動物には意味があったんだね。
辻宮くんは悪いモノを突き止めるのかな?
「いいや、気づいてしまったからこそ、悪いモノについて〝具体的に〟考えない方がいい」
意外にも、辻宮くんは手を引くみたい。
「人間の想像力は強いから、みんながおそろしいバケモノをイメージしてしまうと、手に負えなくなってしまう」
「え、そうなの?」
「神様や妖怪だって、人間が本気で信じるから存在する。それと同じだよ」
──人にイジワルしないで心おだやかに過ごしていれば、あとは知らないままでもかまわんよ。
だから、ニレジイはあえてあやふやにしたんだ。
世の中にはハッキリしないほうがいいことだってあるから。
「そっか。じゃあ辻宮くんは別のウワサを調査するんだ」
「うん。次はあの張り紙について調べてみようかな」
あの、告白禁止の……って、怖いものが好きな辻宮くんが、他のことに興味を持つなんて意外だ。
しかも恋愛。
もしかして、好きな人でいるのかな?