みんな、いなくなってしまったけれど。

実現することのなかった未来。
奪われるかもしれない未来。

主人公・夕貴の時間は、流れているようでいて、
どこかで止まっているように思えてなりません。

冬の山へと登る、凍り付きかけた、孤独の心。
過去と未来の両方から距離がある夕貴の心情はおぼろげで、
一瞬先にはいなくなってしまうのではないかという危うさがあります。

とはいいつつ、シンプルなラブストーリーです。
作者様の飾らないお人柄が、この冬の物語を温かく彩っています。
読み進めていくうちに脳裏に浮かぶ映像が、なんとも似合う作品です。

誰の足跡もない場所から始まった、この物語。
弱弱しくも強い心の結末を、ぜひ見届けてください。