AIを用いるということ

脳幹 まこと

利器にどこまで依存するか


 創作にAIを使うことは灰色グレーの領分である。

 権利の侵害だとか、陰謀だとか、道徳・倫理の話を述べているのではない。


 一度AIを使ってしまえば「AIを使わない道」は、ほぼ消滅する。

 あなたがネットやスマホ、更にさかのぼって、石油や電気のない生活に戻れないようなものだ。


 それくらい、昨今のAIが持つポテンシャルは破格のものである。

 従来それは研究者や大企業・ITベンチャーの機関でしか用いられることはなかった。

 しかし、今や無料で高性能なAIモデル・サービスを利用することが出来る。ネットに繋げるすべての人物に選択肢がある。 

 

 例えば、最近は「ググる」という表現が「パプる」(AIブラウザperplexityパープレキシティから)に変わりつつある。

 AIブラウザは「○○を教えてよ」というと、その指示に従って関連するWebサイトを見て内容を要約し、結果だけを返してくれる。

 精度が100%にはならない(すべてのWebサイトが一切のデマを含まないのが無理なのと同じだ)が、それでも時間は相当に節約できる。


 例えば、Googleが出しているAIモデル「Geminiジェミニ」は、非常に長い文章の入力・出力が可能になっていて、創作活動との相性がいい。

 実際、Geminiを用いたサービス「NotebookLM」はかなり高精度の要約、分析が可能で、「熱意を込めたが評価されなかった作品」についてやり取りさせてみると、「お前は……理解わかってくれるのか…!!」と感涙することだろう。


 例えば、センスはまるでないが、イケてるWebサイトを作りたいという人は、「v0」や「Bolt」といったサービスにお世話になるだろう。

「こういう機能のサイトを作りたい、デザインはこうしたい」と指示すると、Webサイトのひな形を提案、実際に作ってくれる。これも実際にやってみると、驚かれることだろう。


……とまあ、例を挙げればキリがない。

 はっきり言って、相当な大盤振る舞いをされている。これらサービスの開発者には本当に頭が上がらない。


 しかし、創作の理由をビジネスでなく「自分自身の表明」ととらえるのであれば、この魅惑の利器はたちまち非常に厄介な悪魔となる。


 今後、あなたがAIに関わらない選択を取ることは出来ない。あなたが直接見なくても、様々な経路であなたの脳に存在を刻み付けることだろう。

 完全に抜け出したいのならそれは、電気の通わない場所で一生暮らすことを意味する。当然、このカクヨムを見ることも出来なくなる。


 AIを組み込んで、不足を補う選択肢――つまり、文を書けるが絵を描けない人が、自動生成画像によって自分を補うことで、より正確・・に自分を表現できると見る人もいるだろう。

 その理屈は間違っていない。ただ、覚えておいていただきたいのは、このAIとのやり取りはいわば「契約」に近いということだ。

 何かに一歩だけ譲歩するということは、いずれ最大限譲歩する未来をはらんでいる。あなたが自分の意志で止めなければ、AIは限度を知らず突き進む。

 仮にあなたの文章にAIが80点を出したら、何とか100点にしたがるだろう。それがあなたの感性や理屈から離れた提案だとしても、不足を埋める快感に酔うことだろう。

 様々な不足をゆだねるうち、自分の本来であった「文」も委ね、魂を委ねることになる。


 あれだけ世間を騒がせ、書店にAIコーナーを作らせるきっかけとなった「ChatGPT」のリリースは2022年11月末で、まだ2年と少ししか経っていない。

 まわりの意見は、私も含め、多く吹き荒れている。多分しばらくは収まらない。それらが良いのか悪いのか、正しいのか間違っているのかは、この際問わない。


 これだけは言わせてほしい。

 AIは便利だ。破格だ。そして底なしの魔力が込められた選択肢・・・だ。関わった者の魂を変化させる力を持つ。

 自分の存在に深く関わらないタスク(普段の単純作業とか)に利用するのはよいと思う。道具として使えるなら、きっと過去最高の相棒になる。

 しかし、自分の生き方に適用する際は、本当に良く注意した方が良い。

「自分の道は、如何なる不便があっても自分で見つけたい」という選択を笑うことは出来ない。泥臭い過程を渡る者にしか見えない景色もあるだろう。


 創作じんせいにAIを使うことは灰色の領分である。

 白か黒かは、どうか自分で決めてほしい。

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