信じられるものを失った先にある、笑いの氷点

 雪女とは、本来「畏れ」と「儚さ」の象徴。しかし本作に現れた彼女は、まさかの“アホ”。その予想外のギャップが、読者の常識と恐怖をひっくり返し、思わず笑いを誘う。しかしその笑いの奥には、しっかりと冷たい論理と不気味な余白が潜んでいます。

 本作は、密室ミステリの構造美と都市伝説的な不安を軸に、「ババ抜き」というゲーム的構造を絡めながら、疑心と欺瞞が交錯する“現代の寓話”として描かれます。人は真実よりも安心を求める生き物──その弱さを突かれたとき、どこまで他者を信じられるのか。その問いが、ユーモアとサスペンスの中に静かに沈殿しています。

 論理と狂騒がせめぎ合う“吹雪の山荘”の中で、失われていくのは真実か、それとも人間性か。最後の1行に辿り着いたとき、笑いの裏に凍りついた“何か”が、ひやりと心を掴んで離しません。

 そして最後に──黒澤カヌレ先生。カクヨムコンテスト10、長編・短編でのW受賞、本当におめでとうございます。見事な二冠に、心からの拍手を。

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