怒ってもいい。だから、読んでほしい

最初、私は沢渡くんを受け入れられませんでした。

その性指向ではなく、姿勢ゆえです。
独善的で、他人の痛みに無神経で、何よりも他者に土足で踏み込むようなその言動に、胸がざわつきました。

それでも読まずにはいられませんでした。
それは作者様の誠実さを知っているがゆえ、試されているように感じたからかもしれません。
あるいは、彼の抱える「渇き」が、自分の中にあるものと、どこかで響き合っていたからかもしれません。

全20話を読み終えた今、私は少し違う感情で彼を見つめています。

この作品は、性的指向や恋愛観、性自認をめぐる“答えのない世界”を真っ正面から描き出します。
安易な共感や救済に頼ることなく、「怒り」や「哀しみ」という感情の源泉から書いています。
これはエッセイ『物書きの壁打ち』『第7話 性をめぐる答えのない世界』を読むと、より明確になります。

登場人物たちが映すのは、作者自身の過去や、かつて作者を傷つけた誰かの影や断片かもしれません。
そして、そんな直視したくないモノを理解しようとする眼差しが、物語全体を通して示されているようにも見えます。
私はその姿勢に、物書きの端くれとして最大限の敬意を表します。

本作は、冒頭で沢渡くんに拒否感を覚えたあなたにこそ、読んでほしい。
それは、プロット上のフックのための道具的露悪とは一線を画する。
怒っても、苛立ってもいい。
だけど読み終えたあと、あなた自身の中にも、少し違った感情が芽生えているかもしれません。

読むことで、誰かを許せなくてもいい。
でも、自分を少しだけ赦せるようになるかもしれない。
自分というのは、あらゆる他者を映す鏡です。
故に、それは人と共に生きることへの第一歩になりうる。

――そんな物語です。

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