第33話 通学路のテケテケ

 小4の凌太が通う学校には、学校の怪談ならぬ通学路の怪談がある。通学路それぞれに怖ろしい話が伝わっているのだ。

 それによると、凌太が毎日使っている通学路にはテケテケが出るという。

 テケテケは下半身がなく、両腕を使ってテケテケと走って追いかけてくるお化け、ということくらいしか凌太は知らないが、足が遅い凌太は、出会ってしまったら絶対逃げられない自信がある。

 だから、なるべく友だちと登下校するようにしている。でも、友だちと一緒にいても、その中で凌太が一番足が遅いから、きっと自分が逃げ遅れて捕まる。そう思うと泣きたくなった。

 そのことを仲がいい翔に言うと、「大丈夫さ」と彼は言った。

「テケテケには弱点が二つあるんだ。一つは信号を見ないこと、もう一つは、足がないから食べ歩きができないことだ」

 凌太は意味がわからず首をかしげた。

「それだと、どうして大丈夫なんだい?」

「食べ歩きができないから、食べている間は追いかけられないんだ。テケテケはうまい棒が大好物だから、それを投げてやると、きっとそれを食べ始める。その間に逃げるんだ」

「でも、食べるのも速いかもよ」

「うん」翔は重々しくうなずいた。「だから、うまい棒は最低2本は準備しておかなければいけない。僕はランドセルに常に3本入れている」

「そ、そうなんだ……」

 翔は黙ってうなずき、話を続けた。

「それと、タイミングを考えないといけない。うまい棒を投げて時間稼ぎをするだけでは、いずれ追いつかれてしまう。横断歩道で仕留めないとダメなんだ。だから、1本目で足止めしている間に、横断歩道の手前まで行かなきゃいけない。そして、待つんだ」

「待つって、テケテケをかい?」凌太は驚いて聞き返した。「そんな、危険じゃないか。早く家まで逃げた方がいいよ」

「いや、ダメだ」翔は首を横に振った。「テケテケは一度狙った獲物は、どこまでも追ってくる。家の中も安全じゃない」

「え、そんな……」

「だから、完全に仕留めなくちゃいけないんだ」

「どうやって……?」

「だから、横断歩道を使うんだ。うまい棒で時間を稼いで、横断歩道の前で待ち構えるんだよ。そして、テケテケが追ってきたら、信号が赤に変わる寸前に渡って逃げる。テケテケもすぐに追いかけてくるだろうが、その時は、もう信号は赤だ。テケテケは信号を見ないから、そのことに気づかない。信号が変わるとともに走り出した車にひかれてしまう、というわけさ」

 凌太は疑わしいそうな顔をして言った。

「そんなうまくいくかな? 車もテケテケを見て停まっちゃうかもよ」

「いや」翔は首を横に振った。「テケテケは下半身がなくて背が低いから、運転席からは見えないんだよ。――まあ、実行するのは簡単じゃないだろうけど、これ以外にヤツをやっつける手段はないんだ」

 そう言うと、翔は力強くうなずいてみせた。


 そんな話をした翌日のことだ。

 翔が交通事故で死んだ。

 赤になったばかりの横断歩道を渡ろうとして、見切り発車の車にひかれたそうだ。

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友だちを作ってもいいですか?  ――超短編怪異譚集 ZZ・倶舎那 @ZZ-kushana

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