大海原に望月の輝く夜と、焔の明けと。
- ★★★ Excellent!!!
何とも壮大で不穏な、美しい物語だ。
広く深く黒々とした海水を湛える大洋の
遥かに深い、闇の深淵にとぐろを据える
巨螭(おおみづち)が、或る時ふと天上の
月を呑もうと考える。
その大きさたるや、想像しただけで気が
触れるほど。長く大きな身体を畝らせては
巨大な海嘯を齎して行く。
破格のスケールで描かれる巨螭の威容と
その途方もなく大きな自然のもとで小さく尊い命を紡ぐ人々の暮らし振りが対照的に
描かれる。
商船の上で不穏な風と波に巨螭を予感する
『鬼目』と呼ばれる紅い瞳の青年。
濱に打ち寄せる波に洗われる瑠璃に玻璃、
宝珠の煌めきを探して、吹き荒ぶ濱風に
翻弄される荒屋に棲まう娘。
焔の府の皇子は猩猩と火焔鳥の衣を着て
夜の海端で巨螭が発す海嘯を迎え撃つ…。
巨螭の身じろぎで起こる大海嘯は
南の島々を蹂躙する。
そして巨螭は
いよいよ大きな望月を
呑み込まんと、巨大な長い長い身体を
深い海の底から畝らせて、月へと向かう。
何とも不思議な心地よさ。凛とした
月の音が大海原に谺する。一方で
深く昏い海の底には一体どんなものが棲まうのか。
震える様な美しい物語。