その短歌は、現実を変える
- ★★★ Excellent!!!
まず何より惹き込まれるのは、「短歌を詠むと現実になる」という幻想的な設定です。
物語の中心に据えられているのは、単なる異能やファンタジーではありません。
“言葉が現実を変える”という、詩的で根源的な問い。読む者に「世界は、もっと繊細にできているのではないか」という気づきを残してくれる御作品です。
物語の舞台は、どこにでもあるような高校生活。制服、教室、廊下、帰り道。その日常の中に、“短歌”という異物が静かに、けれど決定的に挿し込まれていく構成が絶妙です。たった一首で空気が変わり、日常が現実と幻想の境界の間でにじむように変化していきます。
登場人物たちの描写も非常に丁寧で、特別な力を持つ少女・神代結歌の苦悩と、それに巻き込まれる少年・葦名律の葛藤と選択が物語を動かします。
この物語が問いかけるのは、“力を持つか否か”ではなく、“どう選ぶか”。
人としての選択が、静かに、しかし確かに重ねられていきます。
そして、この作品の核にあるもの…それはやはり、“言葉そのものの力”です。短歌という形式を、物語の装飾や道具に留めるのではなく、世界の理として、登場人物たちの感情や存在の証として、深く根づかせておられます。
台詞のひとつひとつにまで慎重な選定が感じられ、作者様の“書く”という行為への誠実さが、作品全体に染み渡っておられる御作品です。
ぜひご一読ください。