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拝啓、ペパーミントはあとぶれいく

 あの日の午後、私は自室の窓辺の席で、アールグレイティーを淹れていた。

 冷房の効きすぎた部屋に、葉の爽やかな香りが、やや過剰なまでに漂っている。机の上にあるPCには、映し出された未返信のメールが二十七通。うち八通は、件名が「至急」、三通は「ご確認ください(再送)」、残りは既読にする勇気さえ出なかった。

 ──人は、なぜ「休む」ことに罪悪感を抱くのだろう。
 働くことが美徳だと、誰が決めた? 

 きっと、それは古代から連綿と続く、サボりに対する集団的憎悪の遺伝子であり、ある種の呪いに違いない。

 しかし、その呪いをあっさりと解いてしまった友人が、私には一人いる。

 加藤ゆずる──職業不詳、住所はたぶん空の下、怠惰を信条とする男。かつてブラック企業を半年で辞め、一週間かけて「朝起きない」、「悟らない」という終生の習慣を完成させたらしい。

 そんな彼から、久しぶりにLINEが届いた。

 冒頭に『拝啓、ペパーミントはあとぶれいく』と書かれた本文は、こうだった。

 > 人生ってさ、熱いうちは飲みにくいだろ? 特に夏場は。だから今、冷ましてるところ。君も、ちょっと休めよ。

 笑ってしまった。この人は、いつだって喩えが雑で、なのにやたらと正確で、そしてタイミングが完璧だった。

 返信もそこそこに、私はスマホのカレンダーを起動し、来年の今日の欄に「冷ます日」とだけ入力して、リマインダーを設定した。

 休むことは、サボりじゃない。きっと、それは未来に残すべき贅沢で、勇気で、もしかしたら愛の一種かもしれない──なんて。

 冷えた紅茶を一口飲んで、私はPCの電源を落とした。


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翻訳:物語の更新はありません(たぶん)。


大正ギャル革命
https://kakuyomu.jp/works/16818792435830813596/episodes/16818792435831481599

暴走系殺戮少女が街を壊すので、ハッカーと殺し屋でなんとかします。
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霞斬館日録
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もしよかったら、箸休めにいかがでしょうか?

2件のコメント

  • え? 続きは……?
  • 続きは....ないです!(たぶん)
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