第十一章を公開しました。
今回は、商業ビルの深夜警備という「何も起こらないことを確認し続ける時間」に、焦点を当てています。
佐久間玲奈は、出来事の中心には立ちません。
人と人が出会う場所でも、物語が動く場所でもなく、その外縁で、ただ境界が保たれているかを確かめ続ける存在です。
巡回路の静寂。
監視モニターに映る、音を持たない夜。
無人フロアに返ってくる、自分の足音だけの反響。
そこにあるのは「起こらなかったこと」の積み重ねであり、記録に残るのは、異常がなかったという事実だけです。
それでも同じ時間の層では、誰かがレジに立ち、誰かが車を走らせ、誰かが光を現像し、誰かが無音の映像を繋ぎ、それぞれの持ち場で夜を受け止めています。
互いに交差しないまま、確かに、同じ町の呼吸の中に存在している。
この章は、そうした「交わらない境界線の内側」に立つ視点から、夜が何事もなく終わっていく過程を、そのままの温度で描いています。
何かが起きる前でも、起きた後でもなく、起きなかったという事実が静かに積み重なる時間です。
その層に覚えがある方は、今回もまた、同じ高さの夜として、そっと読み進めていただけたら嬉しいです。