第十章を公開しました。
今回は、語られる物語というよりも、語られない時間の連なりに、そっと耳を澄ます章になっています。
コンビニの蛍光灯の下で続く深夜の呼吸、足音、機械音、紙の擦れる音、それらが重なって、時計では測れない速度で夜が進んでいく様子を、早川ひかりの視線の高さで描いています。
彼女は何かを選ぶわけでも、誰かと関係を結ぶわけでもありません。
ただ、通り過ぎていく時間と人の気配を、記録せず、意味づけもせず、そのまま受け取っている存在です。
フリーペーパーや地域紙、ポスターや写真展の告知、「誰かが切り取った光」や「言葉になる一歩手前の沈黙」が、店内の片隅に静かに置かれていることも、この章の背景にあります。
記録する人たちと、記録されない時間が、同じ夜の中で並走している感覚です。
夜と朝の境目、蛍光灯の白と、朝焼けの淡い色が重なる、そのほんの短い層に、この章は立っています。
はっきりとした出来事は起きません。
音と光と沈黙の重なりの中で、確かに一晩が更新されていきます。
掴みきれないまま通り過ぎる時間に、覚えのある方は、今回もまた、同じ高さの夜として読んでいただけたら嬉しいです。