第三章を公開しました。
今回は、ラジオという「声だけが外へ流れていく場所」に立つ佐倉希乃の夜を描いています。
誰かの眠れない時間に寄り添いながら、それでも自分の内側までは渡さない、その微妙な距離の取り方が、この章の中心にあります。
声は親密さをつくります。
耳元まで近づき、感情の温度を運び、孤独を一時的に和らげる力を持っています。
同時に、声はとても安全な仮面でもあります。
触れさせているようで、触れさせません。
近づいているようで、核心には入れません。
希乃は、その境界の上にずっと立っています。
語らないことで守っているもの、距離を保つことで成立している仕事、そして、誰かに届いていながら、誰にも完全には掴まれない在り方。
第三章は、「繋がっているのに、ひとりである」という状態の輪郭を、声と沈黙のコントラストでなぞる回になっています。
誰かの夜に溶け込む声と、その奥にしまわれた、まだ言葉にならない感情、そのあいだに生まれる、触れられないけれど確かに存在する距離感を、同じ静けさの高さで感じていただけたら嬉しいです。