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【星200到達記念番外編】アイギス本部内にての日常

「いつになったら、テメェはまともに動けるようになんだよ」
「別に動けないわけじゃないです。私は普通です。おかしいのは渡守くんたちです」

 いつもの自主練に向かうさながら、渡守くんはダルそうに口を開く。

「俺等の中で動けねェのが問題なんだっての。クソチビはともかく、温室育ちのお嬢様にまで負けるなんざ、論外だろ」
「うっ、それは……」

 渡守くんに痛いとこを突かれ、思わず口ごもる。

「弱くてすみませんねぇ!? だからこうしてお願いしてるんじゃないですか!!」
「の、わりには全く成長してねェじゃねェか。なんだァ? 訓練は口実で、本当は俺と二人っきりになりてェとか、そういうアレかァ? 生憎、テメェは趣味じゃねェ」
「あ、それはないです。万が一でもそんな感情が芽生えたら、即、脳外科なんで。私、恋人には社交性を求めるタイプなんで」

 渡守くんは肩をすくめ、ニヤリと口端を吊り上げる。

「ハッ、相変わらず口だけは一丁前だなァ? そのキレ、ちったァ剣先に乗っけらんねェのかよ」
「マッチだけなら、渡守くんより強い自信はあるんですけどね」
「へェ? ンなに言うなら、マッチの訓練に切り替えるかァ? 負けて泣いても、胸は貸してやんねェけどなァ」
「安心して下さい。あなたの胸に縋るぐらいなら、床で寝てる方が建設的です」

 そんな軽口を交わしながら、私たちは訓練室の前に到着する。すると、自動ドアが開いた瞬間、室内から勢いのある声が響いてきた。

「ドロー!!」

 これは、……タイヨウくんの声?

 覗き込むと、案の定、タイヨウくんが叫びながらカードを引いていた。その側には、ヒョウガくんとシロガネくんの姿もある。……いや、ちょっと待って。あのデッキ、なんかおかしい。

 彼の前には、床から胸元に届くほどの高さのカードの束。まるで塔のように積まれたそれに手を置き、勢いよく一枚、また一枚と引いている。

「ドロー! ドロー! ドロおおおおお!!」

 いや、引きすぎだろ。なんであんな異常に積まれたデッキからドローしてんの? 新手の儀式か何かか?

 理解が追いつかないまま中に入ると、3人の視線がこちらに向いた。

「おっ! サチコたちも訓練か?」
「うん。ちょっと戦闘訓練をね。タイヨウくんは……何してるの?」
「見ての通りだ!」

 いや、わかんねぇよ。だから聞いてんだよ。

 私が思わず眉をひそめると、隣に立っていたシロガネくんが、真面目な顔で言った。

「ドローの訓練さ」
「ドローの……訓練?」

 ドローって……ただカード引くだけじゃなかったっけ? 何? その動作に極意でもあんの?

「こうしてドローを繰り返すことで、ドロー力を高めているんだよ」

 ドロー力、ってなんだ? それは一体どんな力なんだ? それを高めたからって何の役に立つの? 急に新たな単語を出すな。私に分かる言語で話してくれ。

「強いサモナーは、必要なときに必要なカードを引ける。その力を身につける訓練さ」

 なにそれ、新手のイカサマか? そんな簡単に引けたら苦労しねぇんだよ。

「そのために、タイヨウくんは一枚一枚、カードと心を通わせているんだ」
「いや、普通にサーチカード入れろや」

 ビ、ビックリした。今、自分の口から出たのかと思った。横を見ると、渡守くんが呆れきった顔で3人を見ていた。

「ンな運ゲーで勝てんなら苦労しねェんだよ。サーチか手札増強でアド稼ぐか、ダスト肥やして回収した方が確実だろォが」

 正論すぎてぐうの音も出ない! 君のその、ホビアニのわけわからん根性論を一刀両断していくスタイル……嫌いじゃない。もっと言ってくれ。

「だから君は弱いんだ」
「……あ゛ァ?」

 挑発するように言い放つシロガネくんに、渡守くんの眉がピクリと跳ねる。

「そんな事は大前提さ。運も実力の内って言葉を知らないのかい? 大事な場面で、大事なカードが引けないから。詰めが甘いまま終わるんだよ」
「ざっけんな! 運で引いたカードでイキってんじゃねェよ! ンなモン、実力でも何でもねェだろォが!!」

 渡守くんが一歩踏み出した瞬間、その前にヒョウガくんがスッと入り込む。

「五金シロガネ、あまり言ってやるな。そいつは……運に見放されているからな。これ以上は、惨めだ」
「あ゛ァ゛!? シスコンどチビは黙ってろ!!」
「貴っっ様ああああ!! 誰がシスコンどチビだ!!」

 額を突き合わせん勢いで言い争う3人。その間に火花が散って見えるのは、きっと私の気のせいじゃない。

「お、おい! お前ら落ち着けって!」

 タイヨウくんが慌てて間に割って入り、両手を広げて3人の間に立つ。

「シロガネもさ、そういう言い方は良くないぜ」
「……そうだね。ごめんね、タイヨウくん。気を付けるよ」

 シロガネくんは、タイヨウくんに向かって申し訳なさそうに微笑んだかと思えば、すぐに何事もなかったようにカードをシャッフルし始めた。その顔に、反省の色はない。

「僕らの意見は相反するみたいだ……言い争ってるだけじゃ不毛だろう? だったら、正しいのは誰かマッチで決着をつけようじゃないか」

 その提案に、ヒョウガくんが勢いよくカードを構える。

「ふん。異論はない。言葉より、実力で証明する方が性に合っている」

 渡守くんも鼻を鳴らしてデッキを取り出した。

「ハッ、いいぜェ? テメェらまとめて叩き潰してやるよォ!!」

 完全にマッチ突入モード。止める間もなく、3人はMDにマナを込め、バトルフィールドを展開している。

「……これは、渡守くんとの訓練は無理そうですね」

 私は肩をすくめ、諦め交じりにため息をついた。

「ねぇ、タイヨウくん。代わりに私のマッチの相手、してくれない?」
「おう! 任せとけ! ドロー修行の成果、見せてやるぜ!」

 ガッと拳を握るタイヨウくん。その足元には、いまだ胸元まで届くカードの山が鎮座している。

「……まずは、そのカードの山。片付けてからにしようか」

 結局この日、私は予定していた訓練とはまったく別のメニューをこなすことになった。予定外? ええ、まあ。いつものことです。

2件のコメント

  • タイヨウくん、ディスティニードローはマジで強すぎるよ。こんな訓練でも主人公属性ならマジで運命力鍛えられそうで恐ろしいw
    本編で皆離れ離れ中だから、同じ場所に集まってるだけでほっこりする
  • 不可能を可能にする男ですからね!鍛えられてますよ!メキメキとw

    本編がシリアス続きなので、ギャグ多めにしました(*´▽`*)
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