小学生四年生にもなってくると、頭のやわらかい子はクイズをつくるようになる。
「あ、ひらめいた」
昼休みの教室で、どの給食のおかずが一番おいしいか話していたときだった。
友枝くんがふと天井を見上げた。
友枝くんは、新しいクラスで初めて友達になった男の子だ。下の名前はワタルだけど、苗字がめずらしいから、ぼくは「友枝くん」と呼んでいる。
友枝くんはクイズ作りが好きだ。
「きたぞ早乙女。クイズの神様がおりてきた」
友枝くんがニヤリと得意げに笑った。
この子もぼくをススムではなく苗字で呼ぶ。めずらしい名前だからなんだって。
「またクイズが浮かんだのか。友枝くんは頭がいいな。ところでこの前のきゅうりとツナマヨのサラダはおいしかったよね」
「今度こそ、早乙女をギャフンと言わせてやる」
「シャキシャキした歯ごたえがサイコーで、おかわりしたいくらいだよ」
「クイズが苦手でも、一丁前に文句は言うんだから。今回は、しっかり解けよ」
「たぶん、きゅうりをピーマンにしてもイケると思う。友枝くんもそう思うでしょ?」
「おい早乙女、いつまでピーマントークでもり上がっている。いいからクイズを解けよ」
お、おのれー。また強引にクイズタイムがはじまったよ。
せめてクイズが得意な子にだせばいいのに……。
友枝くんはなぜかぼくにクイズをだす。
ぼくはクイズが苦手なのに。
「仲間ハズレを選べ。チーズ、チョコ、イチゴ、フルーツ、ショート。さあ、どれだ?」
「ショートくんだけ食べものじゃない」
「いや男の子じゃねーよ。だいたい、このショートって人の名前じゃないからな」
ぼくのすばやい回答に友枝くんはすかさずツッコミをいれた。
じゃあショートってなに? そんな名前の食べ物なんて知らないよ。
「わからないな。答えは?」
「答えはイチゴ。言葉の最後に〝ケーキ〟をつけてみろよ。チーズケーキ、チョコケーキ、フルーツケーキ、ショートケーキ。でもイチゴケーキはないだろ?」
「そういうことね」
イチゴがのったケーキはショートケーキと呼ばれる。でも引っかかるなあ……。
「なんでショートくんじゃダメなの?」
「ショートケーキのショートだからだよ。まったく、早乙女だけだよ、ショートを人の名前だと思うのは」
友枝くんはくすくすと笑っている。
なんだかぼくだけがおかしいとバカにされているような気分だ。
単語にケーキをくっつける法則に気づけなかったら、ぼく以外でもショートだけ食べものじゃないって思うよ?
それに「しょうと」って聞いたら、まっさきに男の子なのかなって思わないの?
「そういえば、近所のチワワがいるんだけど、チーズちゃんって名前なんだよね。あ、友枝くんもペットを飼っているよね。名前なんだっけ?」
「は? なんだよいきなり……。チョコとイチゴだけど……」
ぼくの言いたいことがわかったようで、友枝くんは顔をしかめた。
しめしめ。ぼくはすまし顔をつくり、手をアゴにあてた。
「でも、フルーツって名前は自分の子にもペットにもつけないよね? あ、仲間ハズレはフルーツか」
「待てーい! 新しく答えをだすなー!」
友枝くんはストップをかけた。
「また文句かよ。早乙女はケーキ食べないのか?」
「たべるよ。たんじょう日、クリスマス、豆まきの日、子どもの日、お月見の日、あとテストで百点とったとき」
「めっちゃ食うじゃん。そんなに食べるのに、なんでショートといえばショートケーキって思いつかなかったの?」
友枝くんはキョトンとぼくを見る。なんでって言われてもなあ。
「二人とも楽しそうだけど、なんの話しているの?」
クイズで盛り上がると、きょうみをもった子が近づいてくる。
ぼくらの声を聞きつけて佐藤さんがやってきた。
「友枝くんがまたクイズをつくったんだよ。やれやれ」
「あいかわらず早乙女くんはうんざりしているね。クイズは楽しいのに」
佐藤さんが視線をぼくから友枝くんに変える。
すると友枝くんがサッと目をそらした。
あれ? 友枝くんはだれとでもすぐに仲良くなるのに。
「トモくんはクイズをつくれるんだ! すごいなあ」
「べ、べつに……。これくらい、たいしたことじゃないから」
「ねえ、あたしにもだしてよ。トモくんのクイズを解いてみたい」
「まあ、どうしてもっていうのなら……」
佐藤さんが登場してから、友枝くんの声が聞き取りにくい。
ぎこちないというか、キンチョーしている?
佐藤さんは親しげに「トモくん」と呼んでいるのに。
友枝くんは目をそらしまま、仲間ハズレクイズをだした。
「ちなみに、ヒントはお菓子」
あれ? ぼくにはヒントをくれなかったのに。
ずるいぞ! ぼくだって、ヒントがあれば答えられたのに!
「あー、そういうことね!」
佐藤さんは目をきらめかせた。すぐに答えを見つけたようだ。
「〝タルト〟をつけると仲間はずれがわかるね。チーズタルト、チョコタルト、イチゴタルト、フルーツタルト。でもショートタルトってないもんね」
「…………正解デーズ」
「トモくん? なんでそんなビミョーな顔なの?」
なるほど。佐藤さんの考え方だと、仲間ハズレはショートになる。
「佐藤さん。じつはぼくも答えはショートじゃないかなって思っていたんだよ。でも友枝くんは、ちがうって──」
「早乙女はショートくんを食べられるかどうかで決めたからダメ!」
なんてこったい!
友枝くんのとんでもない発言のせいで、まるでぼくが人間を食べるヤツみたいになってしまったよ!
おかげで佐藤さんからバケモノのような目を向けられている!
「ショートくんを食べる……うわっ、やだ。ウチのクラスにヤバいヤツがいたなんて」
「ま、まってよ佐藤さん。ショートくんが食べものじゃないってわかっているから! ぼくはきゅうりに夢中なただの小学生だからね。安心していいよ」
「あはは。人間は食べものじゃないって、そんなの当たり前じゃない」
佐藤さんは笑いをこらえている。
どうやら、さっきのドン引きした目は演技だったみたい。
「でも早乙女くんの考えは、筋が通っているよね。あたしだってヒントを聞いていなかったら、短いという意味のショートだけ食べものじゃないって思っていたから」
「やっぱり。ぼくもショートだけ食べられないって思ったんだ」
「それとね、苺(イチゴ)は漢字で書けるけど、それ以外はカタカナなんだよ」
友枝くんはギクリとなった。
佐藤さんが短時間で、納得できる答えを三つもだしたからだ。
「それで、トモくんが用意した本当の正解はなに?」
「…………ううー! まいった! こうさんします!」
「そのセリフって、問題が解けない人が言うんじゃないの?」
「このクイズは穴だらけだ。みとめるよ」
友枝くんは両手を上げた。
テストだって一問につき解答は一つだ。
ちゃんとした理由がいくつもあって、答えが一つにしぼれないのなら、クイズとして不合格だ。
「クイズってカンタンに作れると思ったんだけどな。これじゃあチャンピオンをぎゃふんと言わせるのは夢のまた夢か」
ぼくの通っている足立小学校は、一年生から六年生までクイズが大好きだ。
たとえ学年がちがってもクイズをだせば友達になる。
だからいろんなクイズを知っている子はだれとでもなかよくなれるし、すぐに正解を見つけられる子は人気者になれる。
この学校には、どんな問題でも解いてみせるチャンピオンがいるんだって。
友枝くんは、自分の考えたクイズで「まいった!」と言わせたいらしい。
でもチャンピオンだから、なみたいていな問題なんてパッと答えるのだろう。
ひとひねりのあるクイズでうならせたいところだけど、そんなクイズって、どうすれば思いつくのかな?
「こうなったら十回クイズでしとめるか」
「しとめるって……」「ぶっそうだなあ」
「二人とも、『北海道はてっかいどう』と早口で十回となえろ」
「長いよ」「ダジャレ?」
ぼくらは言われた通りにダジャレを十回言うと、すかさず友枝くんが問題を出した。
「もっとも北にあるのは何県?」
「山口県」
「早乙女くん、青森県だよ」
「おのれ、だまされなかったか」
友枝くんは北海道と言ってほしかったみたいだけど、北海道は県じゃないから。
引っかからなかったのに、不正解だったよ。はずかしい。
「そういえば、チャンピオンをうならせたクイズがあるんだけど、二人はクロスワードパズルって知ってる?」
そう言って、佐藤さんはノートにハテナを並べたものと問題文を書いた。
?
?
?????
?
?
(あ)大豆でできた白くて四角の食べもの。
(い)あついとき、広げてパタパタと風をおくる道具。
(う)十本足で泳ぐ生きもの。
(え)夏になると、のきしたでチリンチリンとなるもの。
「ハテナにはひらがなが入るからね。四つの答えを組み合わせると、あるフルーツが見つかるからそれをあててね……というクイズだったんだけど」
そこで佐藤さんは言葉をきった。
この先が肝心だよとぼくらに目配せをしてから、続きをしゃべった。
「このクイズは成立していません。いったいなぜでしょう」
「はあ⁉︎」
友枝くんはおどろいていた。
そりゃそうだ。クイズになっていないクイズを出す。こんなパターンってアリ?
「そんなのムリだろ。成立していないクイズなのに答えろって」
「ううん。トモくん、そうじゃない。クイズに答えるんじゃなくて、どうして成立していないのかを考えて」
「ん? クイズとして成り立っていない理由を当てるクイズ? ややこしいぞ」
友枝くんはふくざつな問題に困っていた。
うーんと考えているから、今のうちにぼくはいくつか佐藤さんにたずねる。
「ねえ佐藤さん。四問の答えのワードをどこに入れるかどうかは、自分で考えていいんだよね?」
「え? あ、うん。そうだよ。たしかにクロスワードパズルって、『ここに答えを入れてね』という番号が振り分けられているけど、このクイズは自分で考えて入れるよ」
積極的に問題を解こうとするぼくの反応が意外だったのか、佐藤さんは目を見開いた。
クイズが苦手なぼくならそもそも見向きもしないと思われたのかな。
たしかに、ただのクイズなら友枝くんに任せていたよ。
でも、どうしてこのクイズがダメなのか、はっきりしたかったから。
「このパズルにかくれているフルーツは、スイカだよね」
「え! な、なんでわかるんだよ!」
「ためしに解いてみたら、なんとなくスイカかなって思っただけだよ」
(あ)はとうふ。
(い)はせんす。
(う)はいか。
(え)はふうりん。
きっと『とう〝ふ〟』と『〝ふ〟うりん』が重なるから、左側の縦三つとその下の横はこうなる。
と
う
ふ う り ん ?
?
?
「でもこのあとがつながらないぞ?」
「〝そうなんだよ〟。もし、『ふうりん』じゃなくて『ふう〝せん〟』だったら、かぶせるようにせんすが入る。そして残った部分にイカをいれる」
「だからパズルにかくれたフルーツはスイカだったのか!」
「このパズルの目的は、正解であるスイカを見つけてもらうこと。だからクイズを作った人は、他の部分を見落としてしまった」
「早乙女くん。気づくの早いね」
佐藤さんから、信じられないものを見るような目を向けられた。
なんだその反応は。
これくらいは、たいしたことじゃない。少し考えればだれだって気づくよ。
それにチャンピオンだって、このズレを見つけたでしょ?
「それはそうなんだけど、早乙女くんは早すぎるよ。チャンピオンですらクイズを理解するまでに時間がかかったし、『ふうりん』と『せんす』をどうつなげようか苦労していた」
「そうなの?」
「それに、なんとかスイカを見つけても、作者の気持ちまでは見抜くことはできなかった。……うん、これは気に入られるよ」
後半は声が小さくて聞き取れなかったけど、佐藤さんは「これはイケる」とうなずいていたから、たぶん悪いことは言われていないと思う。
「じつは、このクイズを考えた子が早乙女くんに会いたがっていたよ」
「え、こんなぼくにファン?」
「まあ、ファンといえばファンかな。小さい発見を見のがさず、どうしてだろうと考える姿がステキなんだって」
めっちゃくちゃほめてくれるじゃん。
そんなにぼくのことが好きなのか。
「そのファンって、どんな子」
「一言でいうとムードメーカー。明るくていっしょにいると楽しいよ」
「その……カワイイ?」
「見た目は……そういえばカワイイね。ピンクが似合う」
「ぼくもそのカワイイ子に会ってみたいな」
「じゃあ今日の放課後に会ってみる?」
「うん!」
わー、まだお昼なのにドキドキしてきた。
こうして恋が始まるのかな。
楽しみだなあ。
待ちに待った放課後、佐藤さんに連れられて新聞クラブが活動している部屋に向かった。
「ススムくん! 待ってたよ!」
すでに部屋のなかで待っていた、ピンクのTシャツを着た〝男子〟が抱きついてきた。
あれぇ! カワイイ女の子だと思っていたら、かわいらしい男子じゃないか!
そういえば、佐藤さんは、ぼくに会いたがっている子を女の子だとは言っていなかった。
いや、でも……よりによって、この子なの⁉︎
「覚えてる? 桃江ヨウタだよ! あれから会えなくて、さみしかった。もうはなさない。ずっといっしょだよ」
「い、いやぁぁ!」
そうだった。ぼくはこの子に目をつけられていた。
たまたま、学校新聞のクイズにかくされたメッセージに気づいただけなのに、ヨウタくんから仲間として受け入れられている。
ぼくは仲間になる気なんてこれっぽっちもないのに!