人によっては呪いどころか祝福装備である。自動で他の言語が思ったように口から出る指輪。天馬蒼依は使いこなしています。
海外旅行で大活躍。
あれからその人に荷物を届けて、焼肉パーティーして次の日。
「ひまーーーー!」
蒼依は今日もそう騒いでいた。
「また貼られてるよ。下水道以外に配達の仕事.
最近多いねえ、下水道掃除以外のお仕事」
アンがそう答える。
「今見てきました」
ガートルード=キャボットが掲示板から戻ってくる。
「今度は普通の配達で、魔導ネットのマーケットサイト『ももぞん』で客が注文したものを普通に配達するのと、雪が降る宵闇の館まで配達する仕事だってさ。最近人手足りないからギルドでも募集するんだって」
「ふーん。じゃあ受けよっか」
という事で受けた天馬蒼依たち。みんなバラバラで届けに行く。
天馬蒼依の場合。
荷物は重いの10箱ある。もちろん1つ1つ届ける所は違う。
「これ水ばっかり注文してるな~。水くらい蛇口ひねって飲めよーカイアス王国みたいに水道重金属汚染されてないんだしさ。冬華師匠に霊波動鍛えてもらってなかったらわたし一人じゃはこべねーし!! こんな水ばっかり」
カイアスで暮らしてた時。天馬蒼依は水道から出る水が金属くさいと思う事が何度かあった。
「ふう。そういやあの塔でもらったこの指輪、面白さ欲しい時にはつけよ」
あの時から、怪しいデザインの指輪を天馬蒼依は警戒なくつけて遊んでいる。
雪は朝から緩やかに降り続いていた。宵闇の館の裏口に置かれた十個のダンボールは、蒼依が一人で抱えるには多すぎる。彼女は両手に三箱ずつ抱え、あとの四箱を足の間に挟むようにして運び始めた。
「水ばっかり注文してるなぁ……」
最初の配達先は館のすぐ近所だった。木造のアパート二階、203号室。階段は古びていて、一歩ごとにきしむ。ダンボールの角が手のひらに食い込み、指先が冷たくなっていく。
ドアをノックすると、寝癖の立った男が顔を出した。
「ももぞんの配送です。水十箱のうち三箱」
「あ、あの……浄化してもらえます?」
「は? アンタも?」
「下の階の教祖さまに。お祓いを」
天馬蒼依は肩で息をしながら、男を見上げた。こんな寒いのに、水をわざわざ買って、おまけに浄化? 蛇口の水ではダメなのか。
だが、文句を言っても始まらない。彼女は再び階段を下り、105号室のドアを叩いた。線香の匂いがする。開けてみると、オレンジ色の法衣を着た中年男が、床に描かれた円環の中で踊っていた。
「荷物を浄化してほしいと上の人に言われてきたよ、クソ野郎。今度は203号室」
「うむ! 悪しき波動を感じる!」
男は両手を上げてくるくる回り始めた。ダンボールの箱が揺れる。蒼依はふと、右手の指輪が光るのを感じた。静寂の塔でもらった、あの怪しいデザインの指輪だ。
「サンサンサン! 清め給え!」
教祖は回転を止め、一息ついた。
「浄化料、五万ウサギ」
「……はぁ? まだやってんのそれ?」
「代金とは別だ。悪しき波動を祓った報酬だ」
蒼依は黙って蓋を開け、中の水をごくごく飲んだ。
「悪しき波動って、美味いんですねー」
「な、また飲んでしまった! 私の霊力が!」
「じゃあ、浄化料は上の人に請求してきますねー。Damn you, fraudster(くたばれ詐欺師)」
二階に戻ると、男は財布を出し渋った。
「五万……ない。三万なら」
その瞬間、指輪が熱くなった。蒼依の口から勝手に言葉が零れる。
「Oh my gosh !! YoYoYo, guy, just pay up, man. Five grand or I take the water back(はぁ!? おいおいおい、金払えよ。浄化代わたしが立て替えるわけないだろ! 50000ウサギ払わないと水を取り返すよ)」
「な、なに言ってるの!? 意味が!」
「I said, pay the fee. Don't be a cheapskate(料金を払えって言っただろ。ケチなことするなよ。それかあんな変な宗教止めちまえ!)」
男は戸惑いながらも、三万ウサギを差し出した。蒼依は肩をすくめ、サインを促う。言語が勝手に変わるのは面白い、不思議と相手は怯んでいる。外せば元に戻るのだから気楽だ。
「asshole !(こんちくしょう!)」
